かな)” の例文
だんだん彼女の何時も深いかなしみに隈どられた面輪が、頭の中のスクリインに大写しのようにいっぱいに映ったまま消えなくなったのである。
アンドロギュノスの裔 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
「こんど来る時には、メンデルスゾンのものを買つて来てね、いつそかなしい方が慰めだわ、新しい、騒々しいのは厭……」
繰舟で往く家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
将軍家をはじめ天下万民、いかなることになり行くかと、世を挙げて憂いかなしみ、御国の悩みを身の悩みとしておる際に——青楼せいろうで歌を謡うとは何事だ。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本郷の若竹の銀襖を、晩夏の夜のかなしみとうたいしは、金子光晴君門下の今は亡き宮島貞丈君だった。ほんとうにここはまた、山の手らしい、いつも薄青い瓦斯灯の灯の世界であった。
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
人々の憔懆せうさうのみのかなしみや
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
かの蒼ざめかなしい霧のうち
が併し、その絵姿が美しければ美しい程、云いようのないかなしみの影が心の底に頭を擡げて来るのをドリアンは気がついた。
今宵月はいよよかなしく
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
『思い出して、かなしくなること、あって?』
或る母の話 (新字新仮名) / 渡辺温(著)