情緒じょうちょ)” の例文
殿様とのさまのおしのびめいたり、しんみり父親の油滲あぶらじんだ手を思い出したりして、後に随いて廻っているうちに、だんだんに情緒じょうちょが出た。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
この陽気でおきゃんな女の一皮下には、妙な悲劇的な情緒じょうちょのあるのを、平次はまざまざと見せつけられたような気がしたのです。
この調子は、はじめて湖の見え出した時の感じに依るもので、従って恋人に近づいたという情緒じょうちょにも関聯するのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼女と私の間にはどんな情緒じょうちょ纏綿てんめんとした場面もなかったのである。あるとき彼女はこんなことを云ったことがある。
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
悲しい情緒じょうちょが胸にあふれた。かれは他人の欠点をいうことはなにより嫌いであった、ましてその人に向かってその人を侮辱するのは忍び得ざることである。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
この際重井と結婚を約するは情において忍びざる所なきに非ず、情緒じょうちょ乱れて糸の如しといいけん、妾もそれの、思い定めがたくて、いずれ帰国の上父母とも相談してと答えけるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
だんだん刺戟を強くして行って復一はしきりに秀江との関係を手紙の度に情緒じょうちょく匂わして行ったが、真佐子からの返事には復一の求めている女性の肉体らしいものは仄めかないで
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ただ一つ、僕が実感として、此の胸が浪打なみうつほどによくわかる情緒じょうちょは、おう可哀想という思いだけだ。僕は、この感情一つだけで、二十三年間を生きて来たんだ。ほかには何もわからない。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
お互に兎に角、つばさのある情緒じょうちょを持っている人間なのでございますからね。
ジャン・プルーヴェールは情緒じょうちょ深く、鉢植はちうえの花を育て、笛を吹き、詩を作り、民衆を愛し、婦人をあわれみ、子供のために泣き、未来と神とを同じ親しみのうちに混同し、気高き一つの首を
その整然たる外面美とロマンティックな情緒じょうちょが、三名人の演奏で、古い録音の間から、生々とした感興でき上って来る(JI八七—九〇)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「古に恋ふる鳥かも」という句で、簡浄の中に情緒じょうちょ充足し何とも言えぬ句である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
夜の情緒じょうちょ、夜の空気、夜の感傷、そして夢のような夜の讃美さんびをショパンはこの名において二十曲も書いている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
情緒じょうちょと愛に満ちた歌曲リードの数々、それから少しむずかしいものを要求する人は、四つのシンフォニーや、ピアノ・ヴァイオリン・ソナタ、それに最もブラームス的な渋い弦楽四重奏曲
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)