悲愁ひしゅう)” の例文
それもこれも、悲愁ひしゅうの裡に沈んでいる泥舟を励ますためであった。実際、泥舟に取っては、それも一つの悩みであったのである。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尽きせぬ悲愁ひしゅうなげくが如く、一度耳にしたならば、一生涯忘れることが出来ない様な種類のものであった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし自分はどうした訳であろう。ただ何という事もなくがっかりしたのだ。一種の悲愁ひしゅうと、一種の絶望を覚えたのだ。ああ、どうしたわけであろう。どうしたわけであろう。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
身体は疲れ果て、心は悲愁ひしゅう。しかもただ一騎でもあるし、戦うすべもなく、馬をかえしてべつな道へ急ぐと、またまた、一林の茂りをひらいて
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう音色ねいろ悲愁ひしゅうな叫び、または嘈々そうそうとしてさわやかに転変する笙の余韻よいんが、志賀しがのさざ波へたえによれていった——
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、この若くして偉大なる軍師の死は、寄手全軍の上にも、悲愁ひしゅうをたたえずにいなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとよりそれ自体の力は多足というに足らない。しかしそれが一般強壮な者の汗闘かんとうふるわすことは大きい。彼らは戦災の悲愁ひしゅうをわすれ、希望の明日をこの土木へけたのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)