忙殺ぼうさつ)” の例文
一日中、秀吉の身辺は、かれのさしずを待つ奉行や留守居の将や、また遠国からの使者や、祐筆ゆうひつや、近習の取次などに、忙殺ぼうさつされていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嫁入の支度で忙殺ぼうさつされるのみならず、きっと貧殺ひんさつされるだろうとか云う話になると、子供のない宗助の耳にはそれほどの同情も起し得なかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫人と次郎とは、それでまた引越しさわぎに忙殺ぼうさつされたが、それはいかにも楽しいいそがしさだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
祁山の蜀兵は、目に余る魏軍に肉薄されて、その防ぎに忙殺ぼうさつされ、かくとは少しも気づかぬもののようであったから、司馬父子とその奇襲部隊は
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時ゴーリキは大変な人気を一身に集めて、招待やら驩迎かんげいやらに忙殺ぼうさつされるほどの景気のうちに、自分の目的を苦もなく着々と進行させつつあった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宮本博士が退屈をするとさんがたまると云ったごとく、忙殺ぼうさつされて酸が出過ぎる事も、余は親しく経験している。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
和田呂宋兵衛わだるそんべえたちが、おおきな十をささげて、層雲そううんくずれの祈祷きとうにでていったあとは、腹心の轟又八とどろきまたはち軍奉行いくさぶぎょうかくになって、伊那丸いなまる咲耶子さくやこをうつべき、明日あすの作戦に忙殺ぼうさつされていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汽車中では重吉の地方生活をいろいろに想像する暇もあったが、目的地へ下りるやいなや、すぐ当用のために忙殺ぼうさつされて、「あのこと」などはほとんど考えもしなかった。
手紙 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんなまちがいの起こるのもまた校正掛りを忙殺ぼうさつする今度の戦争の罪かもしれない。
戦争からきた行き違い (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
玄関にかかった時は受付が右へ左りへの案内で忙殺ぼうさつされて、接待掛りの胸につけた、青いリボンを見失うほど込み合っていた。突き当りを右へ折れるのが上等で、左りへ曲がるのが並等である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)