心耳しんに)” の例文
風大ふうだいを揺り落し、その次は火大かだい、その次は水大すいだい、最後に地大ちだいを揺り動かして、かくて夜明けまでには本来の大地に、生身しょうじん心耳しんにをこすりつけて
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
歌口をしめして吹き出しましたが、その音色は尺八よりは一きわ静かで、殊に名人の吹くこと故に、心ないお百姓まで心耳しんにを澄ましておのずかかしらを下げて聞くことになりますると、夕霞は深く立って
君が心耳しんにのきくところ
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
普通の人の耳で聞き、普通の人の眼で見ては、何の気配けはいもないことも、この人の心耳しんににはありありと異常が感得せらるること、今に始まった例ではありません。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二畳のへやの反故張り障子の内で、小三郎が一節切を取って手向たむけの曲を吹きました音色が、丈助の心耳しんにへ聞えますると、アヽ悪いことをしたと、始めて夢の醒めた如く改心致し、母の手を握り詰め
さてそれならばいっそ安房あわの国へ渡って、再び清澄のお山に登る、そこで心静かに、心耳しんにを澄ましてはどうかとおっしゃる、そのお言葉には、道理も、情愛もございます。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
透徹された心耳しんにを有する人は、この宇宙のラジオを、アンテナも、レシーヴァーもなしに聞くことができて、それを人間に伝えた時に、人間がそれを神秘とし、奇蹟としました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いつの世か、夜雨禅師という人があって、ことのほか夜の雨をきくことを楽しんだということだが、全く、静かな心境で、夜の雨が軒をめぐって心耳しんにを潤す快味は得もいわれない。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)