心地こゝろもち)” の例文
何卒どうぞ、私の書いたものをよく読んで見て下さい。」左様さう言つて置いて奥さんの前を引退ひきさがつた。あの心地こゝろもちは今だに続いて居る。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
福鼠ふくねずみはさぞ心地こゝろもちわるいだらう』とあいちやんはおもひました、『たゞねむつてるばかりでかないんだわ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そしてそっと彼女の隣りの夜具に瞳をやると、大きな夜具の上が心地こゝろもち動いたとも思はれないほど、動いて、すき通るやうな小さな声はそこから洩れてゐたのであった。
かなしみの日より (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
二階の部屋も窓の障子も新しく張替へて、前に見たよりはずつと心地こゝろもちが好い。薬湯と言つて、大根の乾葉ひばを入れた風呂なども立てゝ呉れる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
此頃こなひだも或処で君の評判を聞いて来たが、何だか斯う我輩は自分を褒められたやうな心地こゝろもちがした。実際、我輩は君を頼りにして居るのだから。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その一時の出來心で私の爲たことは、知られずに濟んだとは言へ、今だに私は冷汗の流れるやうな心地こゝろもちが殘つて居ます。
根津にちかづけば近くほど、自分が穢多である、調里(新平民の異名)である、と其心地こゝろもちが次第に深くおそひ迫つて来たので。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ある年の夏、戸棚から取出して見ると、枕の隅々を鼠にかじられあまり好い心地こゝろもちはしなかつたので、それを涼しさうな和紙に貼りかへたこともある。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こゝの女中も矢張内儀さんと同じやうに、丁寧な、優しい口の利きやうをして、吾儕の爲に温暖あたゝかい、心地こゝろもちの好い寢床とこを延べて呉れた。吾儕は皆な疲れて横に成つた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
出歩く人々も少なかつた。吾儕われ/\がブル/″\震へながら、漸くのことである温泉宿へ着いた時は、早く心地こゝろもちの好い湯にでも入つて、凍えた身體を温めたい、と思つた。火。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「今朝の隅田川はまるで湖水のやうだつた。どうも実に心地こゝろもちだつた。」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)