御供おそなえ)” の例文
千代子はそのなかで、例の御供おそなえに似てふっくらとふくらんだ宵子の頭蓋骨ずがいこつが、生きていた時そのままの姿で残っているのを認めて急に手帛ハンケチを口にくわえた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「最早お前さんも子供では無いから、三度々々御茶受おちゃうけは出しませんよ」なぞと言いながらも、矢張やっぱり子供の時分と同じように水天宮の御供おそなえ御下おさがりだの塩煎餅しおせんべいだのを分けてくれた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その柳が、遠くにけむるように見えるんです。その上に東山が——東山でしたね奇麗なまあるい山は——あの山が、青い御供おそなえのように、こんもりとかすんでるんです。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そう持つのではないと叱られると、きっと御供おそなえのような平たい頭をかしげて、こう? こう? と聞き直した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宵子の頭は御供おそなえのように平らに丸く開いていた。彼女は短かい手をやっとその御供の片隅かたすみへ乗せて、リボンのはじを抑えながら、母のいる所までよたよた歩いて来て、イボンイボンと云った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助も二尺余りの細い松を買って、門の柱に釘付くぎづけにした。それから大きな赤いだいだい御供おそなえの上にせて、床の間にえた。床にはいかがわしい墨画すみえの梅が、はまぐり格好かっこうをした月をいてかかっていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)