強請せび)” の例文
「おい二郎、また御母さんに小遣こづかいでも強請せびってるんだろう。お綱、お前みたように、そうむやみに二郎の口車に乗っちゃいけないよ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(僕にはどこがいいのかわからなかったがね。)それだもんだから、どうしてもあの女の古い人力車と苦力とを手に入れたいと強請せびるのでね。
彼女はいやな思いをしながら、幾度梅園小路の春よしを訪ね、姉を表へ呼び出して金を強請せびったか知れないのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
御飯の時に姉さん達は次の週に舞踏会をしたいって、三人がかりでお母さんを強請せびっていた。しかし招待状を出しても男は一人も来ないだろう。来なくたって構わない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
三両の給金というのに眼がれて、前後のかんがえも無しに是非そこへやってくれと強請せびりますので、お徳もとうとうを折って、当人の云うなり次第に奉公させることになりました。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お前はほかに、お前を好いている女がいるのじゃないか。それとも塾生の中にお前が好いている娘がいて、その事にいて母親と喧嘩したのじゃないか。母親にお金を強請せびったのじゃないか。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
欲しがって、わたしも四、五十円は出してやったんだが、いくらでも欲しがるので、お前に云われたこともあるし、ハッキリ断っていたんだが、それが十日前くらいからピッタリ強請せびらなくなったので……
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「そう贅沢ぜいたくばかり云ってちゃもったいない。いやなら僕に譲るがいい」と敬太郎は冗談じょうだん半分に須永を強請せびることもあった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
裸になってまちから帰って来ると、兄はよくお島のものを持出して、顔を知っている質屋の門などをくぐったが、それも種子たねが尽きて来ると、矢張女のところへ強請せびりに行くより外なかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
が、それは僕が中学から高等学校へ移る時分の昔である。今はいくら母に強請せびって同じ話をくり返してもらっても、そんな気高けだかい気分にはとてもなれない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何時起るかも知れない御縫さんの死は、狡猾こうかつな島田にまた彼を強請せびる口実を与えるに違なかった。明らかにそれを予想した彼は、出来る限りそれを避けたいと思った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は子供が母に強請せびって買ってもらった草花の鉢などを、無意味に縁側から下へ蹴飛けとばして見たりした。赤ちゃけた素焼すやきの鉢が彼の思い通りにがらがらとわれるのさえ彼には多少の満足になった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「このおれをまた強請せびりに来る奴がいるんだから非道ひどい」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)