旧字:弓張提燈
ふとゆく手にあたって弓張提灯ゆみはりぢょうちん——まつ川と小意気な筆あとを灯ににじませて、「オッと! 棟梁とうりょう、ここは犬の糞が多うがす」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ここの停車場ステエションを、月の劇場の木戸口ぐらいな心得違いをしていた私たちは、のぼり万燈まんどうには及ばずとも、屋号をかいた弓張提灯ゆみはりぢょうちんで、へい、茗荷屋みょうがやでございます
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こういうわけで、彼は明治の世に伝わる面白い職業の一つとして、いつでも大道占だいどううらないの弓張提灯ゆみはりぢょうちんながめていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お島が入っていった時分には、もうみんな弓張提灯ゆみはりぢょうちんなどをともして、一同引揚げていったあとであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
長吉は覚えずあとを追って路地内ろじうち這入はいろうとしたが、同時に一番近くの格子戸が人声と共にいて、細長い弓張提灯ゆみはりぢょうちんを持った男が出て来たので、なんという事なく長吉は気後きおくれのしたばかりか
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いずれも弓張提灯ゆみはりぢょうちんを絞って、つき添っているのは、夜通しの旅であったことを想わせ、その人たちが、真中にしてかついで来たものが釣台であり、戸板であるのに、蒲団ふとんを厚くのせていることによって
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
陣笠じんがさをかぶって両刀を腰にした番兵の先には、弓張提灯ゆみはりぢょうちんを手にした二人の人足と、太鼓をたたいて回る一人の人足とが並んで通ったと言って、嘉吉は目を光らせながら寛斎のいるところへもどって来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)