弁疏いいわけ)” の例文
旧字:辯疏
「何の、心からの悪ものではないものが、そんなことをしようぞ。これ、お前は、このわたしの膝の上で、きやつの弁疏いいわけをする気か」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
母はさも愛想あいそらしくまた弁疏いいわけらしく口をいて、「二郎、御苦労だったね、早く御休み。もうよっぽど遅いんだろう」と云った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はただちにこの弁疏いいわけを信ずるほどに正直者ではありません。しかしながらかくの如き意味も確かに存在することは事実です。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
靴の下の緋房を問題にして騒ぎ立てるのは後日に面倒を惹起する基となりはせぬかというような弁疏いいわけを考えて、後に心を残しながら、老人の傍を離れた。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
謙三郎はいかんとも弁疏いいわけなすべきことばを知らず、しばし沈思してこうべれしが、叔母のせなをば掻無かいなでつつ
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、何を書いても、誰が誰に向って書いても同じような弁疏いいわけめいた事しか書けそうもなかった。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
弁疏いいわけするのは、身ひとつを守る私事です。そんな一身の安危になど気をとられていたら、敵の張繍に対する備えはどうなりますか。仲間の誤解などは後から解けばよいと思ったからです
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「昨日から又めっきりお暑くなりましたな。奥様は何処どこかへ御避暑ですか、先刻新宿でお見掛けしましたが、急いでおりましたので御挨拶もしないで失礼いたしました。お荷物でも持って差上げればよろしかったのですが……」と弁疏いいわけらしくいった。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)