廚子ずし)” の例文
美術の淵源地えんげんち、荘厳の廚子ずしから影向ようごうした、女菩薩にょぼさつとは心得ず、ただ雷の本場と心得、ごろごろさん、ごろさんと、以来かのおんなを渾名あだなした。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御部屋の中には皮籠かわごばかりか、廚子ずしもあれば机もある、——皮籠は都を御立ちの時から、御持ちになっていたのですが、廚子や机はこの島の土人が、不束ふつつかながらも御拵おこしらえ申した
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
にじとばり、雲の天蓋てんがいの暗い奥に、高く壇をついて、仏壇、廚子ずしらしいのが幕を絞って見えますが、すぐにすがたが拝まれると思ったのは早計でした。第一女神じょしんでおいでなさる。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軒先のすだれ廚子ずしの上の御仏みほとけ、——それももうどうしたかわかりません。わたしはとうとう御話なかばに、その場へ泣き沈んでしまいました。御主人は始終黙然もくねんと、御耳を傾けていらしったようです。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
中は広いのに、ただ狭い一枚襖いちまいぶすまを開けると、どうです。歓喜天の廚子ずしかと思う、綾錦あやにしきを積んだうずたかい夜具に、ふっくりとうずまって、暖かさに乗出して、仰向あおむけに寝ていたのが
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大笹から音信たよりがあった——(知人はその行をあやぶんだが、小山夏吉は日をかず能登へ立った)——錦の影であろう、廚子ずしにはじめて神像を見た時は、薄い桃色に映った、実は胡粉ごふんだそうである
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)