広縁ひろえん)” の例文
夕飯は、茶の間の涼しい広縁ひろえんで、大勢と一緒だった。漆塗うるしぬり餉台ちゃぶだいが馬鹿に広くて、鏡のように光っているのが、先ず次郎の眼についた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
各層とも勾欄こうらんの付いた広縁ひろえんが廻してあり、そこへ出ると、ちょうど断崖だんがいの端に立った感じで、眼の下から地勢が急にさがってゆき、はるかに青い海のかなたまで、気の遠くなるほど広く
やっと安息の場所をて、広縁ひろえんに風呂敷を敷き、手枕たまくらをして横になった。少しウト/\するかと思うと、直ぐ頭の上で何やらばさ/\と云う響がした。余は眼をいて頭上ずじょうやみを見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
会場の片すみや閣の広縁ひろえんなどでは、俄に立ち話の輪が方々に見えだしている。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時、義経が連れた武士たちは、鎧こそさまざまであったが、面魂やその骨格何れ劣らぬ強者揃いであった。成忠は法皇の仰せを受けて義経を広縁ひろえんの端に呼び、合戦の様子を詳しく尋ねた。
広縁ひろえんのきわへ、むんずりと坐りこみ、膝のうえに青表紙あおびょうしの本をのせ、矢たてと懐紙かいし箱をひきつけ、にが虫を噛みつぶしたような顔をして、しきりに灰吹きをたたきつけているのが、庄兵衛組の組頭
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
駿府の城ではお目見えをする前に、まず献上物が広縁ひろえんならべられた。人参にんじん六十きん白苧布しろあさぬの三十疋、みつ百斤、蜜蝋みつろう百斤の四色よいろである。江戸の将軍家への進物しんもつ十一色に比べるとはるかに略儀りゃくぎになっている。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)