幕舎ばくしゃ)” の例文
と、宋江は、司令部とする幕舎ばくしゃを張らせて、粗末な椅子いすにつくとすぐ、花栄かえいとふたりで、仮に独龍山三荘図と称する、軍用絵図をひらいていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
迎えに出た二人を、自身で引いて、たれも入れない木立の中の一幕舎ばくしゃへみちびいた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前田は先に立って、庭上の幕舎ばくしゃのひとつへ導き入れた。本来は家の内へにない上げてやりたいのであるが、黒田官兵衛なるものは今なお信長からゆるされていない離反りはんの臣とされている身分であった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木陰木陰に幕舎ばくしゃがある。整然とした中にも、将士の笑いさざめきなどがれてくる——家康のいる仮屋は、林の小道をだいぶ歩いてからであった。みどりを映して、あおいの紋幕が、涼やかにうごいている。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、彼らが、朝の伺候しこうに、魚見堂の内へつどって来ると、尊氏はすでに、暗いうちから外の幕舎ばくしゃに出ているという。行ってみると、彼は、うすい白紗しろしゃをかけた正成の首の台とむかいあって、黙想していた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)