帰路かえりみち)” の例文
旧字:歸路
彼女は近いうちに叔父の手伝いとして復た訪ねて来ることを祖母さんに話して置いて、その日は弟と共に遠い帰路かえりみちを急いで行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その寮はッて聞くと、ここを一町ばかり、左の路地へ入った処、ちょうど可い、帰路かえりみちもそこだというもの。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五年前の極月ごくげつ二十日、初雪の降った晩のこと、霊岸島の川口町で無尽に当たった帰路かえりみちを、締め殺されたそのあげく河の中へ投げ込まれ、死骸の揚がったはその翌日
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
帰路かえりみちに炭屋がある。この店は酒もまき量炭はかりずみも売り、大庭もこの店から炭薪を取り、お源も此店ここへ炭を買いに来るのである。新開地は店を早くしまうのでこの店も最早もう閉っていた。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
寺のある郊外の方には岸本が訪ねたいと思う旧友も住んでいたので、彼は帰路かえりみちだけ子供を節子に頼んで置いて、自分ひとりで友達の家の方へ廻るつもりであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
思いあぐんである日のこと、日頃信心する柳島やなぎしまの妙見堂へ参詣した。その帰路かえりみちのことであったがにわかに夕立ちに襲われた。雷嫌いの北斎は青くなって狼狽し、田圃道を一散に飛んだ。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
帰路かえりみちに向う子供等を送るために、岸本はそこまで一緒に歩くことにした。彼は往きよりも帰りの節子のことを気遣きづかった。まぶしい日光は彼でさえ耐え難かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
学校の帰路かえりみちに、鉄道の踏切を越えた石垣の下のところで、私は少年の群に逢った。色の黒い、二本棒の下った、藁草履わらぞうり穿いた子供等で、中には素足のまま土を踏んでいるのもある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)