そち)” の例文
後醍醐もまだそちノ宮といっていた頃のお顔やら、あの人、この君など、数十年の宮廷生活が、回顧の電光いなびかりとなって、あたまのうちに、明滅する。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そち殿、此の引出物はたしかに頂戴しましたぞ。これでこそ今宵参った甲斐かいがありました。心からお礼を申します!」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そち殿とのに承らうにと、国遠し。まづ姑らく、郎女様のお心による外はないものと思ひまする。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
女房の座には、その廉子のほか、さきのきさき為子の妹小大納言こだいなごんの君、そち典侍すけ、少将ノ内侍、尾張ノ内侍。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、突然つかぬことをお聞きするようだけれど、あの、そち大納言だいなごんきたかたな?………」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
石城しきからしてついた名の横佩墻内だと申して、せめて一ところだけはと、強ひてとり毀たないとか申します。何分、そち殿とののお都入りまでは、何としても此儘で置くので御座りませう。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
こゝで此の二人が噂をしている「そちの大納言」とその北の方と云うのは如何いかなる人であるか、と云うのに、大納言は藤原国経くにつねのことで、閑院左大臣冬嗣ふゆつぐの孫に当り、権中納言長良ながら嫡男ちゃくなんである。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)