岩窟いはむろ)” の例文
扨て例の岩の裂け目を通り越して見ると、こゝは一つの岩窟いはむろです。窟の形は劇場の桟敷に似て居て、その周匝めぐりは急な崖です。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
纔かにさす薄光りも、黒い巌石が皆吸ひとつたやうに、岩窟いはむろの中のものは見えなかつた。唯——けはひ、彼の人の探り歩くらしい空気の微動があつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
……した水際みづぎは岩窟いはむろに、つたり、すわつたり、手拭てぬぐひあやにした男女だんぢよ裸身はだかがあらはれたかとおもふと、よこまどからはうまがのほりとかほす、うまやであらう。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
己は折々女と一しよにあの岩窟いはむろることがある。其時は女の若やかな涼しい声が、あの岩の隙間から石盤の中に流れ落ちる水の音にも優つて聞える。己は幸福の身となつた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
かう云ふ心持で己は或る岩窟いはむろの前に来た。入口は野生の葡萄が鎖してゐる。もう日はやゝ西に傾いてゐるが、外は暑いから、常なら己は只涼しい蔭を尋ねて其中に這入つただらう。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
歓びの激情を迎へるやうに、岩窟いはむろの中のすべての突角がたけびの反響をあげた。彼の人は立つて居た。一本の木だつた。だが、其姿が見えるほどの、はつきりした光線はなかつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
……奥入瀬おいらせ深林しんりんを一ところ岩窟いはむろはいおもひがした。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
岩窟いはむろは、沈々とくらくなつて冷えて行く。した した 水は岩肌を絞つて垂れてゐる。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
あすの晩には、庭の岩窟いはむろに蝋燭を焚いて舞踏会をして、それから鏡の広間で宴会をしようと云ふので、己は君達と種々しゆ/″\の評議をして、今宵は明かりの工合を試験して置くと云ふことになつた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)