山際やまぎわ)” の例文
帰りは、みきを並べたとちの木の、星を指す偉大なる円柱まるばしらに似たのを廻り廻つて、山際やまぎわに添つて、反対のかわを鍵屋の前に戻つたのである。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ここの山際やまぎわから、彼方かなた、石井山のかわずはなの下まで、筑前が馬を走らすゆえ、その馬蹄のあとを、築堤の縄とりとせい。よろしいか」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが彼らは大いに悦んで行ってしまいました。その夜はチョモ・ラハリという山際やまぎわの、ラハムトェという貧村に泊った。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「……午後五時廿分、山際やまぎわ葛野くずの両勇士麾下きかの決死隊士によって光華門城頭高く日章旗が掲げられますと、伊藤中佐につづいて、……われわれ……」
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
麹町こうじまちの高級アパートにはいったが、すると、そこにはいくつもの用件が待ちかまえていたなかに、かれの恋人のひとりである山際やまぎわ良子から、急用とみえて
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此辺はわらびを下草にしたならの小山を北に負うて暖かな南向き、斗満の清流直ぐそばを流れ、創業者の住居に選びそうな場所である。山角やまはなをめぐって少し往くと、山際やまぎわに草葺のあばらがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
極性ごくしょうしゅでござったろう、ぶちまけたかめ充満いっぱいのが、時ならぬ曼珠沙華まんじゅしゃげが咲いたように、山際やまぎわに燃えていて、五月雨さみだれになって消えましたとな。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なおかなたのさく山際やまぎわとの境を越えて、ここへあせってくる武士の姿が見えた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)