山懐やまぶところ)” の例文
旧字:山懷
晴れ渡った晩秋の旭光きょっこうがウラウラと山懐やまぶところの大邸宅を照し出すと、黄色い支柱を並べた外廊下に、白い人影が二つほど歩みあらわれた。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
また二里ばかり大蛇おろちうねるような坂を、山懐やまぶところ突当つきあたって岩角を曲って、木の根をめぐって参ったがここのことで余りの道じゃったから、参謀さんぼう本部の絵図面を開いて見ました。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
所々しょしょ遅桜おそざくらが咲き残り、山懐やまぶところの段々畑に、菜の花が黄色く、夏の近づいたのを示して、日に日に潮が青味を帯びてくる相模灘が縹渺ひょうびょうと霞んで、白雲にまぎれぬ濃い煙を吐く大島が
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この丘は、むかし、小さな山寺があったあとだそうで、そう言や草の中に、崩れた石の段々がつたと一所に、真下のこみちへ、山懐やまぶところへまとっています。その下の径というのが、温泉宿ゆのやど入りの本街道だね。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)