ひろが)” の例文
物は言はで打笑うちゑめる富山のあぎといよいよひろがれり。早くもその意を得てや破顔はがんせるあるじの目は、すすき切疵きりきずの如くほとほと有か無きかになりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あきらかに見、明に考へることが出来るやうに成つた。眼前めのまへひろがる郊外の景色を眺めると、種々さま/″\追憶おもひでは丑松の胸の中を往つたり来たりする。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
結婚前の細君の男友だちが結婚した後もその家庭の友人となって、ちっとも不潔でないという生活のひろがりもできて来るでしょう。
女性の生活態度 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
沈潜といふより、事件の興味で優れてゐる歌だが、此も叙事に流れず、主題の新しく外的にひろがつて行つた道筋がよく見える。
叙景詩の発生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
われわれの友人の多くは、外国の象徴詩を国語に翻訳したその瞬間、自分たちの予期せなかった訳文の、目の前にひろがっているのを見て、驚いたことであろう。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)