尾道おのみち)” の例文
うわさには、花隈はなくまから兵庫の浜へ出て、船をひろい、備後びんご尾道おのみちへ落ちて行ったとあるが——ようとしてしばらく所在が知れなかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尾道おのみちから広島へ引上げ、大手町で遭難したという婦人がいた。髪の毛は抜けていなかったが、今朝から血のかたまりが出るという。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
私は十三歳の時に、中国の尾道おのみちと云う町でそこの市立女学校にはいった。受持ちの教師が森要人と云うかなりな年配の人で、私たちには国語を教えてくれた。
私の先生 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「お尋ねをこうむるほどの者には候わず、愚僧は備後びんご尾道おのみち物外もつがいと申す雲水の身にて候」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その狭い場所は種々雑多の人で雑沓ざっとうしていた。今朝尾道おのみちから汽船でやって来たという人もいたし、柳井津で船を下ろされ徒歩でここまで来たという人もいた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
ああ尾道おのみちの海! 私は海近いような錯覚をおこして、子供のように丘をかけ降りて行った。そこは交番の横の工場のモーターがうなっているきりで、がらんとした原っぱだった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
各駅停車のその列車は地方色に染まり、窓の外の眺めものんびりしていたが、尾道おのみちの海が見えて来ると、久し振りに見る明るい緑の色にふと彼はきつけられた。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
啄木の講演を済ませて神戸の諏訪山の宿へ二泊して、十四日に尾道おのみちって行った。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
尾道おのみちの家は、二階が六畳二間、階下は帆布と煙草を売るとしより夫婦が住んでいる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)