将来さき)” の例文
旧字:將來
是迄これまでだつて、私は貴方のことに就いて、なんにも世間の人に話した覚は無し、是から将来さきだつても矢張やはり其通り、何も話す必要は有ません。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「だって将来さきの事なんかわかんないんですもの……貴方みたいに正直に、何もかもに受けて、青くなったり、赤くなったり……」
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
俺にうそを言わなくてもいい。——嘘をついたって、決して悪いとは限らねえさ。併し、将来さきの見透せねえ嘘じゃいけねえんだよ。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
『な、なにを泣く。泣くことがあるものか。お前たちはまだ若い。いくらでも……いくらでもまだ……将来さきはあるんだ』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元振は相公と言えば大臣宰相だ、俺が将来さきで宰相にでもなるのかと思って喜んだ。元振の気が引きたってきた。
殺神記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「他人の懐中物を抜いて走るとは、女ながらも捨ておき難き奴。なれど、見れば将来さきのある若い身空じゃ。命だけは助けて取らせるわ。これにりて以後気をつけい——命冥加いのちみょうがな奴め。行けっ。」
これから将来さき、五年十年と経つて、たまに皆さんが小学校時代のことを考へて御覧なさる時に——あゝ、あの高等四年の教室で
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
どんな悪人の手に渡らないとも限りません、それを思いますと、将来さきが心細うございます、もし、長いことお世話になることができませんなれば、此処二三日でもお願い申しとうございます
花の咲く比 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もつとも、其前の晩、烈しい夫婦喧嘩があつて、継母はお志保のことや父の酒のことを言つて、奈何して是から将来さき生計くらしが立つと泣叫んだといふ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「それでは将来さきの見込が附くまで、此処にいたが宜いだろう」
花の咲く比 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そろって頭を持上げて来た。皆無邪気な少年からようやく青年に移りつつある時だ。何となくそよそよとした楽しい風がずっと将来さきの方から吹いて来るような気のする時だ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「人の一生というものは、君、どうなるか解らない。」と自分は男の顔を熟視みまもり乍ら言った。「これから将来さき、君がどんな出世をするかも知れない。僕がまた今日の君のように困らないとも限らない。 ...
朝飯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)