孤愁こしゅう)” の例文
憮然ぶぜんとして腕を組んだ栄三郎の前に、つがいを破られて一つ残った坤竜丸が孤愁こしゅうかこつもののごとく置かれてあるのを見すえている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
(子は母乳ちちが出ないで泣いている。妻は、孤愁こしゅうに痩せている。そういう犠牲をつくってまで、自分の本分を満足させる。それでよいか、父として、人間として)
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はその後、よく旅先の宿屋の部屋の孤愁こしゅうの中で、このときの女のことを思いだしたものだった。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
誰か凋落ちょうらくの秋にうては酸鼻さんびせざらん。人生酔うては歌い、醒めては泣く、就中なかんずく余は孤愁こしゅうきわまりなき、漂浪人の胸中に思い到るごとに堪えがたき哀れを感じて、無限の同情を捧ぐるのである。
離別以来幾旬日いくじゅんじつ、坤竜を慕って孤愁こしゅうき、人血に飽いてきた夜泣きの刀の片割れ——人をして悲劇にはしらせ、邪望をそそってやまない乾雲丸が、ここにはじめて丹下左膳の手を離れたのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
孤愁こしゅうの少年は、すぐその尼の親しさに馴れた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)