ばばあ)” の例文
片手で袖をつかんだ時、布子の裾のこわばった尖端とっさきがくるりとねて、ばばあの尻が片隅へ暗くかくれた。かまどの火は、炎を潜めて、一時いっときに皆消えた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
虫の啼く、粗壁あらかべの出た、今一軒の家には老夫婦が住んでいた。じじい老耄ろうもうして、ばばあは頭が真白であった。一人の息子が、町の時計屋に奉公していて、毎月、少しばかりの金を送って寄来よこした。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
うちのばばあもまだほんの尼つちよだつた
そのお前、前へ伸上って、帳の中をのぞこうとしたばばあがあったさ。うぬ血迷ったかといって、役僧め、媼を取って突飛ばすと、人の天窓あたまの上へ尻餅をいた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「——おらが口で、あらためていうではねえがなす、内のばばあは、へい一通りならねえ巫女いちこでがすで。」……
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)