夢幻むげん)” の例文
脊から腰には二人の唐子が手鞠てまりをついて遊んで居た。藤三は夢幻むげんを追う思いで、今、彼の視野から消えた女体を、もう一度、網膜に描いた。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
せるにあらぬかといふ、夢幻むげんきやうにさまよひ、茫然ばうぜんとしてうごかずにうしろから、突然とつぜん、一黒影くろかげ出現しゆつげんした。
雪の上に月が照り、空も、斜面も、林も、影も、なにもかも、みな真っ青で、まるで夢幻むげんの世界のようだった。
石鹸シャボン泡沫ほうまつ夢幻むげんの世に楽をでは損と帳場の金をつかみ出して御歯涅おはぐろどぶの水と流す息子なりしとかや。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
兵馬には、その人が何の心あって、何の曲を吹いて来るのだかそれはわかりませんが、その音は柔和にしてこまやかな感情を含んでいる。なだらかにして夢幻むげんの境を辿たどるようである。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
冗談と云えば冗談だが、予言と云えば予言かも知れない。真理に徹底しないものは、とかく眼前の現象世界に束縛せられて泡沫ほうまつ夢幻むげんを永久の事実と認定したがるものだから、少し飛び離れた事を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)