執着しふぢやく)” の例文
元来僕は何ごとにも執着しふぢやくの乏しい性質である。就中なかんづく蒐集しうしふと云ふことには小学校にかよつてゐた頃、昆虫の標本へうほんを集めた以外に未嘗いまだかつて熱中したことはない。
蒐書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
中氣になつてから書いた、宗方善五郎の亂るゝ筆跡ひつせきのうちに、生命に對する根強い執着しふぢやくと、有峰杉之助に對する恐怖があり/\と讀み取れるのです。
誰も彼も世のしわざにいそしんでゐた。しかし、この穏かな平和な田舎ゐなかも、それは外形だけで、争闘、瞋恚しんい嫉妬しつと執着しふぢやくは至る処にあるのであつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
執着しふぢやくが絶てないのです。頭を丸めたり、お衣を着たりしてゐますが、わたしもあなたも普通の人と、ちつとも変りません。あなたは夕方になれば、酒が飲みたくなります。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
何物にか執着しふぢやくして、黒くげた柱、地にゆだねたかはらのかけらのそばを離れ兼ねてゐるやうな人、けものかばねくさる所に、からす野犬のいぬの寄るやうに、何物をかさががほにうろついてゐる人などが
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
執着しふぢやくの靄灰色に。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
兎も角、餘計なことはしない方が宜い。お前さんは、身上の執着しふぢやくを捨てさへすれば事が濟むだらう。
内儀はさう言つて怨めしさうに、夜光の珠に執着しふぢやくする、主人三郎兵衞の顏を見るのです。
部屋は六疊と四疊半のたつた二つ、それにお勝手が附いただけで、調度や建具も至つて下品で、平次が見ては何んの取柄も無い離屋ですが、善七とお安が、それに執着しふぢやくするのはどうしたことでせう。
笹野新三郎の記憶にはこの首の相好さうがうが燒き付くやうに、まざ/\と殘つて居ります、忘れもしないそれは、今日鈴ヶ森の處刑場しおきばで打ち落した首の一つ、死に際まで生の執着しふぢやくにもがき拔いて、一番みにく
さして執着しふぢやくした名前はなかつたといふことに一致するのでした。