土竈へっつい)” の例文
それは同じ土竈へっついの土の割れ目に、奥深く押し込んであったのを、平次は少しばかりの土のこぼれているのからたぐり出したのです。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
正面はぴったりと大きな雨戸がとざされていたから、台所口のような処が明いていたまま入ると、馬鹿にだだ濶い土間で、土間の向う隅には大きな土竈へっついが見え
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
荒削あらけずりの巨大な柱がすすけた下に、大寺院の庫裡くりで見るような大きな土竈へっついがある、三世紀以前の竜吐水りゅうどすいがある、漬物の桶みたようなのがいくつもころがっている。
「——お珠さん、少し休んだがいい。わしが土竈へっついの火も見ていてやるし、薪も割っといてやるで」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
此方こっちへ参れば倉富くらとみへ出る、鎌倉道の曲り角に井桁屋米藏と云う饅頭屋があって蒸籠せいろうを積み上げて店へ邪魔になる程置き並べて、亭主はしきりに土竈へっつい焚付たきつけて居る、女房は襷掛たすきがけ
これを見るがいい、お勝手の土竈へっついの中に、半分が燃え残っていたぞ。読んでやろうか——お糸、丹次、——お柳、又六——
戸棚から土竈へっついから床板まで、貧しい調度ながら整然として輝いているのを見ると、八五郎は妙に涙ぐましくなるのを何うすることも出来ません。
「だから隠すなと言ってるじゃないか、——その時江戸へ持って来た大事な書き物があったはずだ。それをこの土竈へっついに隠してから、何年になるんだ」
娘気の失せない内気なはにかみやで、たった六畳二た間に入口が二畳、それにお勝手という狭い家だが、ピカピカに磨かれて、土竈へっついから陽炎かげろうが立ちそう。
それとも焼いてしまったかも知れない、土竈へっついと風呂場をもう一度捜すことだ、燃えさしぐらいはあるだろう
天井てんじょうから床下ゆかしたから、押入も、戸棚も、土竈へっついの中も、羽目板の後ろも、絶対に見落さないはずですが、夜中までかかって、小刀一挺、いや、針一本見付からなかったのです。
平次はいい加減にあきらめて、一とわたりお勝手の方を覗いてみました。土竈へっついの蔭に恐れ入っているのは、三十を少し越したらしい女、ひどい痘痕あばたで、眼も片方はどうかしている様子です。
案内されたのはお勝手、かなり重い土竈へっついをどけて、揚げ板をぐと、中は三尺四方ぐらいの穴になっております。隙洩すきもる光線で一面のほこりは見えますが、瓶も何にもあるわけではありません。
鞍掛様を騙し討ちにして、絵図面と一緒に隠してあった、土竈へっついの金を盗み出したのは、その弁次郎に相違はないッ、——横網の二階にいて、一と晩独り言を言っていた、その相吉も敵の片割れ
やがてその隙間からスルスルと伸びて来た鳶口とびぐちが一梃、ガラッ八が念入りに縛った引窓の綱の——土竈へっついの上の折れ釘のところの——結び目に引っ掛ると、なんの苦もなく解いてしまったのです。
土竈へっついの下をきつけていたお静が、あねさんかぶりを取って顔を出します。
平次は土竈へっついから出た人相書を、砧右之助に渡してやるのでした。
土竈へっついの中を覗くとこれがありましたよ」
銭形平次捕物控:130 仏敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)