周章うろた)” の例文
「それは、そうだ。……しかし、いずれこうなることはわかっていたのだから、覚悟はあったはずだ。なんで、そんなに周章うろたえる」
あまりの事に周章うろたえたか、これを早速大佐には告げないで、すぐに警察へ通知した。ひとまず主人に通知した上で警察へ通知したとて遅いことはない。
其處で周章うろたへて歌をまとめて東雲堂へ持ち込み、若干の旅費を作つて歸國したのであつた。で、この本の校正をば遠く日向の尾鈴山の麓でやつたのであつた。
樹木とその葉:07 野蒜の花 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
その時はもう平生いつもとかわらぬ風付ふうつきで、先に立って縁側から降りて行きましたが、実はよほど周章うろたえて御座ったと見えまして、跣足はだしで表口の方へ行かっしゃる後から
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『いやいや。』目賀田は骨ばつた手を挙げて周章うろたへて打消した。『誰が貴方、犬ででもなけれあ、あんな古帽子ふるシヤツポを持つて行くもんですかい。冠つて出るには確に冠つて出ましたよ。 ...
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
が、一人今ごろ周章うろたえている母の姿を思うとそれも気の毒になって来るのだった。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
家の大黒柱に白蟻がついてるのを見付けた時のように周章うろたえました。堤の切れるのは何をいても早く埋めなければならない。たちの悪い肉の癒着ゆちゃくは荒療治でも容赦なく截り分けなければならない。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「警固に。……はて、越前の身に、何の警固。周章うろたえるでないぞ」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折惡しくすつかり冷え切つてゐますので沸かして持つて參ります、と宿の主婦おかみ周章うろたへて炭を火鉢につぐ。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
利休の様子には少しも周章うろたえた様子は見えません。ただ朝明けの雪を楽しみつつ客を迎える温恭な気持ちでありました。その気配が秀吉の心に浸みました。秀吉の方がすこし恥かしくなったのです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
などといたずらにこの周章うろたえを周章えまいと自重していた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喧嘩腰になつてかゝればさう周章うろたへる必要もなかつたのだが、それはこちらの氣持が許さなかつた。
樹木とその葉:04 木槿の花 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
不圖ふと氣がついて一つの押入をあけて見ると其處の布團はぐつしよりだ。周章うろたへて他のをあけて見ると其處も同斷である。臺所、便所にまでポチ/\と音が聞えだした。
樹木とその葉:34 地震日記 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
と消え入るやうに驚き周章うろたへて小さな鋭い聲で叫んだが、直ぐまた調子を變へて、落着かせて
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
たゞ、人間の方でいつの間にかその自然と離れて、やがてはそれを忘るゝ樣になり、たま/\不時の異變などのあつた際に、周章うろたへて眼を見張るといふところがありはせぬだらうか。
矢張り斯う周章うろたえねばならなかった。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)