向角むこうかど)” の例文
日蔭の冷い細流せせらぎを、軒に流して、ちょうどこの辻の向角むこうかどに、二軒並んで、赤毛氈あかもうせんに、よごれ蒲団ぶとんつぎはぎしたような射的店しゃてきみせがある。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしその時分は返って風流で枕山蘆洲雪江などと、ソレきそこの教育博物館の向角むこうかどにあった真覚院の詩会などには必ず出掛けたものでござった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
四谷よつやで生れていまもあの辺に住んでいる女から、お鯉の生家は、いま三河屋みかわやという牛肉屋のある向角むこうかどであったということを聞いたことがあったので、さまざまに取沙汰とりざたされている
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
茅場町かやばちょうの通りから斜めにさし込んで来る日光ひかげで、向角むこうかどに高く低く不揃ふぞろいに立っている幾棟いくむねの西洋造りが、屋根と窓ばかりで何一ツ彫刻の装飾をも施さぬ結果であろう。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
橋の向角むこうかどには「かしぶね」とした真白な新しい行燈と葭簀よしずを片寄せた店先の障子しょうじが見え、石垣の下には舟板を一枚残らず綺麗きれいに組み並べた釣舟が四、五そう浮いている。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)