十二社じゅうにそう)” の例文
滝の名所はここ王子なるを初めに、角筈つのはず十二社じゅうにそう、目黒の不動などを主とし、遠くは八王子、青梅などにその大なるものをたずね得べし。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
今日こそ十二社じゅうにそうに歩いて行こう——そうしてお父さんやお母さんの様子を見てこなくちゃあ……私は隣の信玄袋に凭れている大学生に声を掛けた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
この畠を前にして、門前のこみちを右へけばとおりへ出て、停車場ステエションへは五町に足りない。左は、田舎道で、まず近いのが十二社じゅうにそう、堀ノ内、角筈つのはず、目黒などへくのである。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雑司ぞうし鬼子母神きしもじん高田たかた馬場ばば雑木林ぞうきばやし、目黒の不動、角筈つのはず十二社じゅうにそうなぞ、かかる処は空を蔽う若葉の間より夕陽を見るによいと同時に、また晩秋の黄葉こうようを賞するに適している。
車夫は市川の者、両親は果て、郷里の家は兄がもち、自身は今十二社じゅうにそうに住んで、十三の男児むすこを頭に子供が四人、六畳と二畳を三円五十銭で借り、かみさんはあさつなぎの内職をして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「おら、十二社じゅうにそうの中野村まで帰るんだよ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十二社じゅうにそうの鉛筆工場の水車の音が、ごっとんごっとん耳に響く。爽やかな風が吹いているのに私は畳に寝ころんでいる。只、呆んやりと哀しくなるばかり。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
出る時に十二社じゅうにそうの吉井さんのところに女中が入用だから、ひょっとしたらあんたを世話してあげようと云う先生の言葉だったけれど、その手紙は薄ずみで書いた断り状だった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)