前面むかい)” の例文
三吉は腕を叩きて、「たしかに、請合いました。」「よくせい。」とひらりと召す。梶棒かじぼうを挙げて一町ばかり馳出はせいだせる前面むかいより、駈来かけきたる一頭の犬あり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後押あとおしを加えたれども、なおいまだおよばざるより、車夫らはますます発憤して、もだゆる折から松並み木の中ほどにて、前面むかいより空車からぐるまき来たる二人の車夫に出会いぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「こりゃ急に出そうもない」と一人がつぶやけば、田舎いなか女房と見えたるがその前面むかいにいて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前面むかいの喫茶店は、貴婦人社会に腕達者の聞え高き深川子爵何某なにがし未亡人びぼうじん綾子あやこといえる女丈夫にてこの会の催主なり。三令嬢一夫人をしたがえて、都合五人の茶屋女、塗盆ぬりぼん片手に「ちょいと貴下あなた。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)