凜烈りんれつ)” の例文
ぼくは、地上とは別世界にいるその一種凜烈りんれつな感覚を、忘れていた宝石に見入るように、鋭くまぶしい光の矢のように胸にかんじていた。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
折しも向かいの船に声こそあれ、白由党員の一人いちにん甲板かんぱんの上に立ち上りて演説をなせるなり。殺気凜烈りんれつ人をして慄然りつぜんたらしむ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その山なみの上には悔恨のように暗い鼠色の雲がおおいかぶさり、絶えず凜烈りんれつな風と粉雪とを吹きつけてきた。
日本婦道記:藪の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その意気凜烈りんれつ・精神活溌なる、ほとんど人をして当時の風雲を追懐やむあたわざらしむるものあり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
雪線の差が一千四百米突にも及んでいる、日本アルプス南方に、雪の少ないのは、太平洋方面が冬季に、比較的温暖であるばかりでなく、日本海からの凜烈りんれつなる北風は
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そうして只圓翁の凜烈りんれつの気象は暗にこれに賛助した事になるので、翁の愛嬢で絶世の美人といわれた到氏夫人千代子女史が、夫君の後をうて雪中を富士山頂に到り夫君と共に越冬し
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
氏ヲ送ッテ出ル※外ヲ見タラ美シイ星空デアッタガ寒気ハ凜烈りんれつデアッタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
凜烈りんれつ肌を破る寒気こそは、人を火の如く真剣にさせる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊緒の蒼ざめた頬にそのとき美しく血がみなぎり、眉があがって、平常とはまるで見ちがえるような、つよい仮借のない凜烈りんれつな表情を示したそしてやがてこんどは玄蕃のほうへむかって
日本婦道記:春三たび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
霧は反古ほごまるめて捨てたように、足もとに散らばりはじめた、東の空に、どうしても忘れられない富士山が、清冷凜烈りんれつなる高層の空気に、よくも溶けないとおもわれるような、しなやかな線を
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)