伽藍堂がらんどう)” の例文
空いた場所の畳だか薄縁うすべりだかが、黄色く光って、あたりを伽藍堂がらんどうの如くさびしく見せた。彼は高い所にいた。其所で弁当を食った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大きい寺も伽藍堂がらんどうになってしまって、正面の塔に据え付けてあるクリストの像が欠けて傾いている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
にぎわいますのは花の時分、盛夏三伏さんぷくころおい、唯今はもう九月中旬、秋のはじめで、北国ほっこくは早く涼風すずかぜが立ますから、これが逗留とうりゅうの客と云う程の者もなく、二階も下も伽藍堂がらんどう、たまたまのお客は
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
果せるかな家内のものは皆新宅へ荷物を方付に行って伽藍堂がらんどううちに残るは我輩とペンばかりである。彼は立板に水を流すが如く娓々びび十五分間ばかりノベツに何かいっているが毫もわからない。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
休暇になつてからの学校ほど伽藍堂がらんどうに寂しいものはない。建物が大きいのと、平生耳を聾する様な喧騒さわぎに充ちてるのとで、日一日、人ツ子一人来ないとなると、俄かに荒れはてた様な気がする。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
時々大一座おおいちざでもあった時に使う二階はぶっ通しの大広間で、伽藍堂がらんどうのような真中まんなかに立って、波を打った安畳をながめると、何となく殺風景な感が起った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
果せるかな家内のものは皆新宅へ荷物を片付かたづけに行って伽藍堂がらんどうの中に残るは我輩とペンばかりである。彼は立板に水を流すがごとく娓々びび十五分間ばかりノベツに何か云っているがごうもわからない。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分が死んだあと、この孤独な母を、たった一人伽藍堂がらんどうのわが家に取り残すのもまたはなはだしい不安であった。それだのに、東京でい地位を求めろといって、私をいたがる父の頭には矛盾があった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)