伝説いいつたえ)” の例文
旧字:傳説
夜毎、島の各地方から来た語り手を灯の下に集めて円座を作らせ、彼等から、古い伝説いいつたえ古譚こたん詩の類を聞くのが、彼の唯一つの楽しみであった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
案内者は正直な男で、「まあ、ともかくも、そういう伝説いいつたえになっています。」と、余り勿体もったいぶらずに説明してくれました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
言った方もたわむれに、聞くひと串戯じょうだんらしく打消したが、松崎は、かえって、うっかりしていた伝説いいつたえを、夢のように思出した。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三峰、武光、八日見山を首とし、秩父には尊の通り玉いし由のいい伝え処々にのこれるが、玉川の水上即ち今の甲斐路にも同じようの伝説いいつたえなきにあらず。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
歴史と伝説いいつたえ罪悪つみ栄誉ほまれとで、長年蔽われていたこの屋敷には、主人夫婦や寄宿人かかりうどや、使僕めしつかいや小作人の家族たちが、三十人近くも住んでいるのであった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夫人はびっくりしたが、すぐ、かかる際に取るべき伝説いいつたえに気が注いた。
天井裏の妖婆 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ある者の説に曰く、昔からの伝説いいつたえに、池袋村(北豊島郡)の女を下女に雇うと、不思議にもその家に種々の怪異あやしみがある。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大地の底にも敵がいるのだ。俺はその敵を見たことはないが、伝説いいつたえはそれについて語っており、俺も確かにその存在を信じる。彼らは土地の内部に深く棲むものである。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
鳩渓の秩父にて山を開かんと企てしことは早くよりその伝説いいつたえありて、今もその跡といえるが一処ならず残れるよしなれば、ほとほと疑いなきことなるが、知る人は甚だ稀なるようなり。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これは内證ないしょうのおはなしですがね、勿論もちろん百年も以前まえの事ですから、誰も実地を見たという者もなく、ほんの当推量あてずいりょうに過ぎないのですが、昔からの伝説いいつたえに依ると
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)