仮初かりそ)” の例文
旧字:假初
思え、ただ仮初かりそめの恋にも愛人のほおはこけるではないか。ただいささかの子の病にも、その母の眼はくぼむではないか。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
仮初かりそめならぬ人のために終身のはかりごとだになしやらずして今急に離縁せん事思いも寄らず。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
処もあろうに現代文化の淵叢えんそうであり権威である九州帝国大学のまん中の、まひるの真只中まっただなかに、ほとんど仮初かりそめに私の指先に触れたと思う間もなく、早くもその眼に見えぬ魔手をさし伸ばして
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
りとてただこれを口に言うばかりでなく、近く自分の身より始めて、仮初かりそめにも言行齟齬そごしてはまぬ事だと、ず一身の私をつつしみ、一家の生活法をはかり、他人の世話にならぬようにと心掛けて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
満足するというよりは、人の現象ととなえるものも、人の実在と称えるものも、畢竟ひっきょうは意識の——それ自身が仮象であるところの——仮初かりそめな遊戯に過ぎないと傍観する。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一時火のように何物をも焼き尽くして燃え上がった仮初かりそめの熱情は、圧迫のゆるむとともにもろくもえてしまって、葉子は冷静な批評家らしく自分の恋と恋の相手とを見た。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その冷ややかな目の光は仮初かりそめの男の心をたじろがすはずだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)