たか)” の例文
両手を後に組んで、白い顔をしゃんとこっちへ向けて、怒った気のたかぶりが現れたままの瞬きをして、入って行く宏子を見た。宏子は
海流 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
たかぶった感情の流れるままに、あなたに恋人がありましょうとも、よしんば許婚がありましょうとも、そのようなことは数にも入れず
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
終景ラストシーン近くなって、筋は絞られ、感興はたかまり、まさにワクワクし乍ら画面に見入って居ると、いきなり私の耳の傍で、若い美しい声が、緊迫した調子で
法悦クラブ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
場合によっては是の如きは魔境にちたものとして弾呵だんかしてある経文もあるが、保胤のは慈念や悲念がたかぶって、それによって非違にはしるに至ったのでも何でもないから
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
葉子は神経がたかぶっていて、落着きがなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
少しかんたかぶっている様子でキリキリと美しい眉を釣上げながら、平次の顔を正面から振り仰ぎます。
怒り、失望、嫉妬の感情が、心をたかぶらせ頭を燃やし、安眠させようとしないのである。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ある箇所で気分的にたかぶったようなものがあると思うと、最後は、落語の下げのような文句が云われて問題は出発点へ逆もどりしたまま、おやかましゅう、とお開きになった形であった。
お楽はそう言って、まるあごえりに埋めました。銚子を持った華奢きゃしゃな手が少しふるえて、海千山千といった妖婦肌の女にしては、変にたかぶる感情を押えきれない様子です。
でもそうやって、一年ごとにより進んだより多面な努力をつづけてゆくのは感心です。でも、父母が制作にかかって気がたかぶっていると、子供は(六歳)体をわるくしたりしてしまう由。
駈け寄って来た浪之助、これもなつかしさに声をたかぶらせ
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お樂はさう言つて、圓いあごを襟に埋めました。銚子を持つた華奢きやしやな手が少し顫へて、海千山千といつた妖婦肌えうふはだの女にしては、變にたかぶる感情を押へきれない樣子です。
そして宮中脱出の念が一時にたかまるのを覚えたのであった
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そのお常さんは、不斷はあんなに確り者らしいが、妙に氣違ひ染みたところがあつて、氣がたかぶると、時々人前で裸になりたがる癖があつて、家中の者は困つてゐたさうです」
その上近頃はかんたかぶつて、眠られぬ夜が多くなり、身體に脂がのつて、益々健康がよくなると反比例はんぴれいに、氣持の上からは少しむづかしくなつて、男女關係のことに就ては、わけても潔癖けつぺきになり
近頃疳がたかぶると言って、幾間も幾間も隔てて寝かしたり——。