乾魚ひもの)” の例文
おのおの静に窓前の竹の清韻せいいんを聴きて相対あひたいせる座敷の一間ひとま奥に、あるじ乾魚ひものの如き親仁おやぢの黄なるひげを長くはやしたるが、兀然こつぜんとしてひとり盤をみがきゐる傍に通りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
皮膚には一滴のもなく下瞼したまぶたがブクリとふくれてさがり、大きな眼は乾魚ひもののように光を失っていた。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから、素晴らしい魚や、蝶鮫の乾魚ひものをざらに売っていたっけ。おれは蝶鮫の乾物を一つ買って来たがね、まだ金のあるうちに気がついて、いいことをしたよ。
角のあるりようや、乾魚ひもののやうに痩せた学校教師や、白鳥のお嫁になつたお姫様や、そんな面白い話を幾つとなく聴かせたが、娘は黙つて聴いてゐて、時々「はい」とか
西洋人の口は玉葱臭く日本人の口は沢庵臭し。善良なる家庭は襁褓おしめくさく不良なる家庭は乾魚ひもの臭し。雲脂ふけくさきは書生部屋にして安煙草のやに臭きは区役所と警察署なり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)