乳児ちのみ)” の例文
それがというと、坊やも乳児ちのみの時から父親おとっさんにゃあちっとも馴染なじまないで、少しものごころが着いて来ると、顔を見ちゃ泣出してね。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お案じ下さいますな。乳児ちのみもよう寝ついておりますし、家内へもただ今、仔細を申し聞かせてまいりますから」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蹴られておかめはアッとばかりに、恐ろしく削りなせる二三丈もあるがけの下を流るゝ吾妻川の中へ、乳児ちのみを抱いたまゝごろ/\/\と転げ落ち、生死しょうし知らずに成りました。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ゆめ、何も存じません。……私は、舟底に乳児ちのみを抱いて寝ておりましたし、良人がどこへ行きましたやら」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
う一度江戸を見たいと思い、お尋ね者の身の上だが、丹治殿と私は、生れ落ちてまだ間のない乳児ちのみを抱えて山口を立ち、江戸をさして来る道の横堀村で、又旅のおかくばゝあに出遇い
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
我がいさましき船頭は、波打際の崖をたよりに、お浪という、その美しき恋女房と、愛らしき乳児ちのみを残して、日ごとに、くだんかどの前なる細路へ、とその後姿、相対あいむかえる猛獣の間に突立つったつよと見れば
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なにしろ、家内の母乳ちちが出ませんので、乳児ちのみには、くず、米の粉などを湯掻ゆがいては、飲ませておりますが、今夕、この辺りの散所街さんじょまちは、どこもかしこも、えらい騒ぎでございましてな」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)