世帯染しょたいじ)” の例文
旧字:世帶染
私の周囲ぐるりを取りいている青年の顔を見ると、世帯染しょたいじみたものは一人もいません。みんな自由です、そうしてことごとく単独らしく思われたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のみのまま、例のフロックコートのままで寝ることと、妙に世帯染しょたいじみたような一種独特な臭いのする特別な雰囲気を始終身のまわりに漂わせていることで
蛍雪が姉娘のお千代を世帯染しょたいじみた主婦役にいためつけながら、妹のお絹に当世の服装みなりぜいを尽させ、芝の高台のフランスカトリックの女学校へ通わせてほくほくしているのも
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
柳橋やなぎばし左褄ひだりづまとったおしゅんという婀娜物あだものではあるが、今はすっかり世帯染しょたいじみた小意気な姐御あねごで、その上心掛の至極いゝたちで、弟子や出入ではいるものに目をかけますから誰も悪くいうものがない。
「そうね、もしもの事があると不安心だわね」と十七八の娘に似合しからん世帯染しょたいじみたことを云う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いていえば、今日こんにちまでただ世帯染しょたいじみて生きて来たという位のものであった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
万事自分より世帯染しょたいじみているお秀が、この意味において、はるかに自分より着実でない事を発見した時に、お延は口ではいはい向うのいう通りを首肯うけがいながら、腹の中では、じれったがった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お延より若く見られないとも限らない彼女は、ある意味から云って、たしかにお延よりもけていた。言語態度が老けているというよりも、心が老けていた。いわば、早く世帯染しょたいじみたのである。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)