上膊じょうはく)” の例文
海にはこの数日来、にわかに水母がえたらしかった。現に僕もおとといの朝、左の肩から上膊じょうはくへかけてずっと針のあとをつけられていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私はハッとしたが、咄嗟とっさに思いついて、患部を動かさないためと見せかけながら、彼の上膊じょうはくの尺骨神経の個所を、指でさえた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
結局そのとき以来、「火の玉」少尉は右腕の自由を失ってしまい、野戦病院に退いて、ついに右腕を上膊じょうはくから切断してしまったのである。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
肩章の代わりに輪をなした白い大きなモールを上膊じょうはくにつけてるイギリス兵、銅の帯金と赤い飾毛とのついた長めの皮のかぶとをかぶってるハンノーヴルの軽騎兵
五本の指、たなごころ前膊ぜんはく上膊じょうはく、肩胛骨、その肩胛骨から発した肉腫が頭となって、全体があだかも一種の生物の死体ででもあるかのように、血にまみれて横たわって居た。
肉腫 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そこで僕は、エルブ点反射を憶い出しました。それは、上膊じょうはくを高く挙げると肩の鎖骨と脊柱との間に一団の筋肉が盛り上ってきて、その頂点に上膊神経の一点が現われるのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
炭山やまが袖を上膊じょうはくのところまで、まくり上げて、眼の前ですかして見るようにかざした。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「……よし行け……その左翼の小さい軍曹……汝の負傷は一番軽い上膊じょうはく貫通であろう。汝……引率して戦場へ帰れ。負傷が軽いので引返して来ましたと、所属部隊長に云うのだぞ……ええか……」
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
張の怪我したところを調べてみると、それは左の上膊じょうはく(上の腕)を何かでひどく引裂いていた。傷はいやに長く、永く見ていると脳貧血のうひんけつが起りそうであった。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そういって青竜王は、ジュリアをソッとその白絹しろぎぬの上に横たえた。——右の上膊じょうはくに、喰い切ったような傷口があって、そこから鮮かな血をいているのが発見されたのもこの時だった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)