三世相さんぜそう)” の例文
「毎朝、銭湯で逢わあ。臍ぼくろって、臍の上のほくろは、首を切られるか、切腹するかにきまったもんだ。ちゃんと、三世相さんぜそうに出てらあ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
いろは字引だの三世相さんぜそうだのを並べた古本屋だの、煙草入の金具だの緒締おじめだのをうる道具屋だの、いろいろの定紋のうちぬきをぶら下げた型紙屋だの。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
古い洋傘こうもり毛繻子けじゅすの今は炬燵掛と化けたのを叩いて、隠居は掻口説かきくどいた。この人の老後の楽みは、三世相さんぜそうに基づいて、隣近所の農夫等が吉凶をうらなうことであった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一つは『三世相さんぜそう』といういわば昔の百科全書で、どこの家にも一冊はあった。六十の凶とか、これこれの日に生まれると運が悪いとか欲が浅いとかいうことまで書いてあった。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
……だが、見ねえな、よみじ見たいな暗がりの路を、塔婆のおれを銜えた処は犬の身骸からだが半分人間に成ったようだ。三世相さんぜそうじゃあねえ、よく地獄の絵にある奴だ。白斑の四足で、つらが人間よ。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
からだをじ向けたり、手を延ばして年寄が三世相さんぜそうを見るようにしたり、または窓の方へむいて鼻の先まで持って来たりして見ている。早くやめてくれないとひざが揺れて険呑けんのんでたまらない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
支那出来の三世相さんぜそうの珍本も支那の古典なぞと一緒に、その座右にあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
思えば苦しい仔細しさいがあってと察しては御前の心も大方は見えていじらしく、エヽ腹立はらだたしい三世相さんぜそう、何の因果をたれが作って、花に蜘蛛くもの巣お前に七蔵しちぞうの縁じゃやらと、天燈様てんとうさままで憎うてならぬこの珠運しゅうん
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
奄美大島などにも昔からあって、種本として『三世相さんぜそう』なども利用されていた。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この、お町の形象学は、どうも三世相さんぜそう鼇頭ごうとうにありそうで、承服しにくい。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)