一片ひとつ)” の例文
下なるはいよいよ細りていつしか影も残らず消ゆれば、残れる一片ひとつはさらに灰色にうつろいて朦乎ぼいやりと空にさまよいしが
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
村端れの溝に芹の葉一片ひとつ青んでゐないが、晴れた空はそことなく霞んで、雪消ゆきげの路の泥濘ぬかるみの處々乾きかゝつた上を、春めいた風が薄ら温かく吹いてゐた。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「実はどういうんだか、今夜の雪は一片ひとつでも身体からだへ当るたびに、毒虫にさされるような気がするんです。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
村端むらはづれの溝にせりの葉一片ひとつあをんではゐないが、晴れた空はそことなく霞んで、雪消ゆきげの路の泥濘ぬかるみの処々乾きかゝつた上を、春めいた風が薄ら温かく吹いてゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
恰度ちやうど鶴飼橋へ差掛つた時、円い十四日の月がユラ/\と姫神山の上に昇つた。空は雲一片ひとつなく穏かに晴渡つて、紫深くくろずんだ岩手山が、歴然くつきり夕照せきせうの名残の中に浮んでゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『ハヽヽ。神山さんが大丈夫ツてのなら安心だ。早速やらうか。』と信吾が真先に一片ひとつつまむ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
空は、仰げば目も眩む程無際限に澄み切つて、塵一片ひとつ飛ばぬ日和であるが、たま室外そとを歩いてるものは、れも何れも申合せた様に、心配気な、浮ばない顔色をして、跫音あしおとぬすんでる様だ。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)