しるし)” の例文
旧字:
高僧たちの修法はさっぱりとしるしがなく、天皇の毎夜の苦しみは一向になくならぬのにあわてた公卿たちは、深刻な顔で会議を開いた。
それは寛正の頃、東国おおい旱魃かんばつ太田道灌おおたどうかん江戸城にあって憂い、この杉の森鎮座の神においのりをしたしるしがあって雨降り、百穀大にみのる。
以来どれほど懇願にいってもまったくしるしがない、八百助はそこで氏神を訪ね、さらに一郡の鎮守から稲荷さん八幡殿まで手を延ばした。
「侍医の百計も、しるしがないと御意遊ばすなら、いま金城に住居すると聞く華陀かだをお召しになってごらんなさい。華陀は天下の名医です」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法海和尚は「今は老朽ちて、しるしあるべくもおぼえはべらねど、君が家のわざわいもだしてやあらん」と云って芥子けしのしみた袈裟けさりだして
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
音に高い北見村斎藤伊衛門の蛇除へびよけの御守をもらって、お小夜の部屋の戸障子の隙間や窓々に貼りつけて見たが、いっこう、なんのしるしもない。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
呪詛のろいの杉より流れししずくよ、いざなんじちかいを忘れず、のあたり、しるしを見せよ、らば、」と言つて、取直とりなおして、お辻の髪の根に口を望ませ
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
井沢香央の人々、七四かれにくこれかなしみて、もは七五しるしをもとむれども、七六ものさへ日々にすたりて、よろづにたのみなくぞ見えにけり。
ゆゑに幾日の後に待ちて又かく聞えしを、この文にもなほしるしあらずば、彼は弥増いやまかなしみの中に定めて三度みたびの筆をるなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ピドールカはありとあらゆる手段てだてをつくした。修験者に相談したり、怯え落しや癪おさへの呪術まじなひもしてみたが——しかし、なんのしるしもなかつた。
若し、マヰリクラクモと訓むとすると、「ふる雪を腰になづみてまゐり来ししるしもあるか年のはじめに」(巻十九・四二三〇)が参考となる歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
という見識、されば一室に護摩壇を築き、秘仏を勧進かんじんして、三日三夜の間、揉みに揉んで熱祷を捧げましたが、それとても、何んのしるしもありません。
居升の上書の後二十余年、太祖崩じて建文帝立ちたもうに及び、居升の言、不幸にしてしるしありて、漢の七国のたとえのあたりの事となれるぞ是非無き。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこで大八は七日七夜、祈念しておりましたが、やがて満願の夜となりましてもべつだんのしるしもありません。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
○およそ 菅神をまつやしろにはおほかたは雷除らいよけ護府まもりといふ物あり。此 御神雷の浮名うきなをうけ玉ひたるゆゑ、 神灵しんれいらいいみ玉ふゆゑに此まもりかならずしるしあるべし。
袴野ノ麿は草根木皮をあつめてこれを煮てすすめたが、しるしはなかった。物忌ものいみやき者のせいかと、袴野は都はずれに出掛け、医術の心得のあるおうなをさがして歩いた。
もし、厄逆しゃっくりの症になると、虎形をするとすぐなおるのです。これがそのしるしじゃないでしょうか。
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
小身者の仙波として、七瀬が首尾よく勤めたなら、出世のいとぐちをつかんだことになるし、他人に代ったしるしが無かったなら、面目として、女房を、そのままには捨て置けなかった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
鬼神のこれにりて生ずるものならば、いかなる人ありてこれを行うも、鬼神の力よりその要するところの成績を示すべき理なれども、知識、学問あるものにはそのしるしなく、無知
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
社の前にある御手洗みたらしの池に、この石を浸して雨を祈れば、必ずしるしがあると信じていましたが、どうしたものか後には御幣ばかりになって、もうその石は見えなくなったといいます。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
雑言も程こそあれ、世にも恐ろしき神の威霊の近きしるしを今見ざるか。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
果敢々々はかばかしきしるしみえぬに、ひたすら心を焦燥いらちけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
一向にそのしるしも現れては来なかったのであった。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
魔法がしるしを見せなくてはならんのだ。
しるしなきにはあらずかし、御身のむくろく消えて、賤機山に根もあらぬ、裂けし芭蕉の幻のみ、果敢はかなくそこに立てるならずや。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうしたということだ? ……いっこう祈りのしるしは見えてこないじゃないか。——思うにこれは、孔明のいつわり事だろう。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして神の夫婦の衣服きものを見て、それが赤い時には喜びがあり、白い時には金が入った。かならずしるしがあった。それで崑の家は日ましに栄えて往った。
青蛙神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しるし」は効験、結果、甲斐等の意味に落着く。「天ざかるひなやつこ天人あめびとく恋すらば生けるしるしあり」(巻十八・四〇八二)という家持の用例もある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
三晩の修法も何んのしるしもなく、隆順は少し照れ臭く引き下ってしまいました。それに代って呼び込まれたのは、俗に祈りの道六と言う、その頃高名な修験者しゅげんじゃ
○およそ 菅神をまつやしろにはおほかたは雷除らいよけ護府まもりといふ物あり。此 御神雷の浮名うきなをうけ玉ひたるゆゑ、 神灵しんれいらいいみ玉ふゆゑに此まもりかならずしるしあるべし。
ずいぶんお医者にも療治をして貰いましたが少しもしるしがなく、この春さきでございましたか、御藩医の大橋準曹さまに診て頂きましたところ、腫物は胎瘡とか申しまして
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
のちのしるしにせばやと思いてその髪をいささか切り取り、これをわがねてふところに入れ、やがて家路に向いしに、道の程にてえがたく睡眠をもよおしければ、しばらく物蔭ものかげに立寄りてまどろみたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
有効無ありがひなきこの侵辱はづかしめへる吾身わがみ如何いかにせん、と満枝は無念のる方無さに色を変へながら、ちとも騒ぎ惑はずして、知りつつみし毒のしるしを耐へ忍びゐたらんやうに、得もいはれずひそかに苦めり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
よって両親心遣いして、医療さまざまに尽くしけれども、さらにしるしなし。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
この、好色の豪族は、はやく雨乞のしるしなしと見て取ると、日のさくの、短夜もはや半ばなりししゃ蚊帳かやうちを想い出した。……
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土地の人は女の因縁から、頭髪かみの縮れている者は櫛をあげ、顔面に腫物の出た者は、紅白粉を収めて祈願をすることになっているが、それがしるしがあると云われている。
鮭の祟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いろいろ人手を殖やして、締りや夜廻りを厳重にしましたが、結局は何のしるしもありません。
しるしなきものおもはずは一坏ひとつきにごれるさけむべくあるらし 〔巻三・三三八〕 大伴旅人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「今日、大司馬の栄爵えいしゃくを賜わった。近いうちに、何か、吉事があると、おまえ達が預言したとおりだった。祈祷のしるしはまことにあらたかなもんだ。おまえ達にも、恩賞をわけてつかわすぞ」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後のしるしにせばやと思ひてその髪をいささか切り取り、これをわがねて懐に入れ、やがて家路に向かひしに、道の程にて耐へがたく睡眠を催しければ、しばらく物蔭に立ち寄りてまどろみたり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
山半やまのなかば老樹らうじゆえだをつらねなかばより上は岩石がんぜき畳々でふ/\として其形そのかたち竜躍りようをどり虎怒とらいかるがごとく奇々怪々きゝくわい/\いふべからず。ふもとの左右に渓川たにがはありがつしてたきをなす、絶景ぜつけいいふべからず。ひでりの時此滝壺たきつぼあまこひすればかならずしるしあり。
薬も祈祷もしるしがない、だがどうかして治りたい一心から、せめて仕事で馴らしたらと考えたのではなかろうか、それともあまりながびくのが不安で自分をためすために砥石に向ってみたのだろうか
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
這般この、好色の豪族は、はやく雨乞のしるしなしと見て取ると、日のさくの、短夜みじかよもはやなかばなりししゃ蚊帳かやうちを想ひ出した。……
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして日月雲の三字は皆已にしるしがあったので、雷州へ往ってからは深く自ら戒懼かいくして、決して悪いことをしなかったが、二年目になって総官府に上申する事件ができて
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、焦土に働く庶民たちにも、かすかな“生きのしるし”がよみがえりかけていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
媛神 よこしまな神のすることを御覧——いまのあたりに、悪魔、鬼畜とののしらるる、恋のうらみ呪詛のろいの届くしるしを見せよう。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一七日いちしちにちのあいだに、一万度の護摩ごまいて、祈りに祈り、のろいに呪ったしるしもなく、なおこの上柿岡へ立ち越えて、愚婦愚男をたぶらかそうとする親鸞も、この板敷山の嶮路けんろへかかるが最期」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうお眼にかかりましたから、明日は往って生れます、もしあなたがこれまでの情誼をお忘れにならなければ、一度宋家へ往って、私を御覧になってくださいまし、笑ってそのしるしをお眼にかけます
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
(殿、ふと気紛きまぐれて出て、思懸おもいがけのうねんごろ申したしるしじゃ、の、殿、望ましいは婦人おなごどもじゃ、何と上﨟じょうろうを奪ろうかの。)
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼はそのことばを信じて七日間火のものを絶って遥かに祈願をしたが、すこしもしるしがなかった。尊は失望して死のうと思い、同国和気郡わけごおり大字板根おおあざいたねと云う処へ往ってそこの橋の上から身を投げようとした。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)