)” の例文
「備前屋は古い暖簾のれんだ。そこのひとり娘が熊にられるところを助けて貰ったんだから、向うじゃあどんなに恩にてもいいわけだ」
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
猪子いぬしゝしてママおほきなものよ、大方おほかたいぬしゝなか王様わうさま彼様あんな三角形さんかくなりかんむりて、まちて、して、わたし母様おつかさんはしうへとほるのであらう。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
爪が、塗料をたサイドの板にめり込んでいた。非常な力を宿した儘死んでいる指を一本ずつ開いて、屍骸を取り離すのが大変だった。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
かはつてかへつてたのはくま膏薬かうやく伝次郎でんじらう、やちぐさんだかさかむたぬき毛皮けがはそでなしをて、糧切まぎりふぢづるでさや出来できてゐる。
模様入りの人造革を張り詰めた室内の壁には、白樺材を真似た塗料がせてあった。びょうが、掃除婦の忠実を説明して、光っていた。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
根岸の御隠殿裏の貸屋にこもった——不義の汚名をせられ、親類一党から義絶された奥方としては、こうするよりほかに工夫はなかった
其の後で鋳掛屋は、せわしく銅のソース鍋にせ掛けをしました。その鍋の内側をすつかり砂で洗つて、それを火の上に置きました。
煙草の烟で上の方はぼんやりと淡青くなって、黒の勝った新らしい模様の友禅メリンスの小さい幕をせた電灯が朧ろに霞んで見える。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「チョビ安様々、拝む! おがみやす。まずこれ、このとおり、一生の恩にやす。どうぞどうぞ、お返しなされてくだされませ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
不格好な外套がいとうて、この頃見馴れない山高帽をかぶった、酒飲みらしい老人の、腰を掛けている前へ行って、瀬戸がお辞儀をして
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
背向うしろむきの石地蔵いしじぞうが、看護婦の冠る様な白い帽子をせられ、両肩りょうかたには白い雪のエパウレットをかついで澄まして立ってござるのだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
友達の訪れを、心待ちにしていたらしい令嬢の路子は、さっぱりした趣味のよいアフタヌーンをて、新子をよろこび迎えてくれた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
二人ふたりは、いつかその病院びょういん病室びょうしつ案内あんないされたのでした。准尉じゅんいは、しろ衣物きもののそでにせきしるしのついたのをて、あし繃帯ほうたいしていました。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
次郎の心では、算盤をこわしたのは、恭一か俊三かに違いないと睨んでいた。その罪を自分でるのはばかばかしいことではある。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
天井裏にはの飼猫と近くの寺の猫が血に染って死んでいたが、その傍に三尺近い大鼠が死んでいたが、それは僧侶の法衣ころもを被ていた。
義猫の塚 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
又政宗も朝命を笠にて秀吉が命令ずくに、自分とは別に恨も何も無い北条攻めに参会せよというのには面白い感情を持とう筈は無かった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
客が座敷に通ると、女史は蘇格蘭スコツトランドの鴉のやうな真つ黒な洋服をて出て来た。そしてだしぬけに変な調子の英語で話し出した。
こんな塩梅あんばいに児供の時分から少し変っていたので、二葉亭を可愛がっていた祖母おばあさんは「この子は金鍔きんつばすかこもるかだ、」
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それが出来ないなら、むしろ、「かつ粗衣そい)をて玉をいだく」という生き方が好ましい。生涯しょうがい孔子の番犬に終ろうとも、いささかのくいも無い。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そばにはしろきれせた讀經臺どきやうだいかれ、一ぱうには大主教だいしゆけうがくけてある、またスウャトコルスキイ修道院しうだうゐんがくと、れた花環はなわとがけてある。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
朝飯が済でから身仕度するがおよそ二時まで掛ります、大層着物をるのがかましい人でいつでも婚礼の時かと思うほど身綺麗みぎれいにして居ました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
日本服の上に花の附いた帽を面紗おもぎぬおほふた晶子の異様な姿に路路みちみち人だかりがする、西班女エスパニヨルだなどと評して居る者もある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
引開れば是はまた家は裳脱もぬけのからころもつゝなれにし夜具やぐ蒲團ふとんも其まゝあれど主はゐず怪有けふなる事の景況ありさまに是さへ合點がてんゆかざりけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日も暮れていったので、薫も静かに座へもどり、上着をたりなどして、いつも尼君と話す襖子からかみの口へその人を呼んで姫君のことなどを聞いた。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、巨人は其て居る金色の雲をちぎり斷つて、昔ツオイスの神が身をした樣な、黄金の雨を二人の上に降らせ始めた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『お上手を仰しゃること。再婚しないのをいやに恩にせて、しかし場合によっちゃ表面を作る必要が起ってくるんですからね。実に勝手なものよ』
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
ペルシア、ギリシア、ローマ人も馬を重用し、ギリシア人殊に善く騎り馬上の競技を好みしが、くつわたづなありてあぶみなく、裸馬や布皮せた馬に乗った。
小野さんは心配の上にせる従容しょうようの紋付を、まだあつらえていない。二十世紀の人は皆この紋付もんつきを二三着ずつ用意すべしと先の哲学者が述べた事がある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長崎の小曽根で一日宿の主人等と花見に行く時お内儀かみさんが、今日はいのを御召しなさいと云つたけれど、私は平生着ふだんぎの次ぎのをて行きましたが
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
私のし過しから足立駅長のような善人が、不慮の災難をることかと思うと、身も世もあられぬような想いがした。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
その切阿は陰気なありさまをしていて、ただ一つの窓、なおよく言えばトタン板をせた二枚の雨戸きりついていないで、それも常にしめられていた。
「親分、恩にますよ——ほんとうに、さっきから言うとおり——ね、たった一度、ゆっくり話せればいいのだから——因果な女だと、わらってね——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
証拠はこの通りといったので、無実のぬれ衣をた小町は、その歌集を洗って、新たに書きこんだ歌を洗いおとし黒主の奸計をあばくという筋なのです。
「草紙洗」を描いて (新字新仮名) / 上村松園(著)
たま/\抽斗ひきだしからしたあかかぬ半纏はんてんて、かみにはどんな姿なりにもくしれて、さうしてくやみをすますまでは彼等かれら平常いつもにないしほらしい容子ようすたもつのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
毛皮外套をても、ゴムぐつを穿いても余り長く外に立つてはゐられない。せぎ合つてゐる人の体のぬくもりは、互に暖めはしないで、却て気分を悪くする。
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
しかれどもこれらの条件は皆文学以外の分子にして、言はば文学以外の事に文学の皮をせたる者なり。故に普通に言ひおほせたりとて俳句にはならぬなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あの給仕は、おれの外套がいとうを頭の上からせかけた。とんでもないところへ袖を通させる。彼は満足していない。今晩、チップはハンケチの下へ隠して置こう。
赤熊百合しやぐまゆり、王の御座所ござしよ天幕てんと屋根飾やねかざり、夢をちりばめたしやく埃及王ばろ窮屈きゆうくつな禮服を無理にせられた古風こふう女王ぢよわう
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
その金満家の僧侶は金を貸し利子を取って、そうしてその人に恩をせまた自分も利子を得るという訳です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
われその必死を救ひながら、今またかれが命を取らば、怎麼いかにも恩をするに似て、わが身も快くは思はず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ロミオ さいはよるころもてゐる、見附みつけらるゝはずはない。とはいへそもじあいせられずば、立地たちどころ見附みつけられ、にくまれて、ころされたい、あいされぬくるしみをのばさうより。
退屈がりの彼はその道筋で出逢はした顔や聞いた話などに一つ/\ころもをせて喜んでゐたのだつた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
その謙遜なりしこと、今の兒曹こらも及ばざるべし。考試畢りて後、彼は「カピトリウム」の壇に上りぬ。拿破里ナポリの王は手づから濃紫のはうを取りて、彼が背にせき。
何か可恐おそろしい下心でもあつて、それもやつぱり慾徳渾成ずくで恩をせるのだらうと、内心ぢやどんなにも無気味に思つてゐられる事だらう、とそれも私は察してゐる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すぐに婆さんにせる夜の物などが心配になって来た。友達は着ていた蒲団を押入れから引き出して
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もとからの関係で、今では殆んど縁戚同様のつきあいをさせてもらっているのが、惣次郎夫婦のひそかな誇りであったし、またそれを恩にることも忘れなかった。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
盗賊をしない者が盗賊の罪をるなんて、お役人だってわかりそうなもの、盗賊をするような人としない人とは一目見てわかりそうなもの、伯父さんが早く行って
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それでゐながら、この人は、意見の押売をして、そして恩をせてゐるのだから猶更やりきれない。
孤独と法身 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
... せおって! 人に怨みがあるものかないものか! 見よ、見よ、ここ三代が間になんじの屋敷にぺんぺん草を生やしてくれん!』『ええ、やかましいやい、ソレ、もっと薪を ...
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
友情があつてもよし、なくてもよし、恩をてもよし、被ないでもよしなんだ。むくいられない仕事だなどと、先達せんだつての会でも誰かが云つたが、そんなことはあるもんか。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)