行交ゆきか)” の例文
小路を行交ゆきか市人いちびともすべてわが知れりしよりは著しく足早になりぬ。活計たつきにせわしきにや、夜ごとに集う客の数も思いくらぶればいと少し。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちやう程行つてエスカウト河へ出たが、大小の汽船が煙を吐いて荷揚人足や荷車の行交ゆきかせはしい港街の光景に久しぶりに接する心地も悪くない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そこには広い道の上を電車に交って自動車と自転車とが目まぐるしく行交ゆきかっている。その間を縫ってトラックが絶えずけたゝましい地響をさせている。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
あにさん何してるのだと舟大工ふなだいくの子の声をそろによればその時の小生せうせいあにさんにそろ如斯かくのごときもの幾年いくねんきしともなく綾瀬あやせとほざかりそろのち浅草公園あさくさこうえん共同きようどう腰掛こしかけもたれての前を行交ゆきか男女なんによ年配ねんぱい
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
車道は雷の様な音を立てて行交ゆきかう電車や、自動車、自転車で、急流を為し、耳をろうする音楽と、目をくらます雑踏が、その辺一帯の通行者から、あらゆる注意力を奪ってしまったかに見えた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一面に陳列された商品がさき盛った野の花のように見え、天井に回るファンの羽ばたきとうなりが蜜蜂を思わせ、行交ゆきかう人々が鹿のように鳥のようにまたニンフのように思われてくるのである。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
行交ゆきかふ人影は下にりこめられて
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
白い姿のあわただしく行交ゆきかうのを、見る者の目には極めて無意味であるが、彼等は各々めいめいに大雨を意識して四壁の窓を閉めようとあせるのである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東京のみちの様で無く、目まぐるしい程自動車や其他そのた雑多な車の行交ゆきか巴里パリイ大道だいだうたくみに縫つて自動車を駆る滋野君の手腕は感服すべき物であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
玉の井ゆき吾妻橋ゆきの青い乗合自動車がそういっても間断なくその道のうえを行交ゆきかった……
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
……ばかりじゃ無い、……かりがねつばめきかえり、軒なり、空なり、行交ゆきかう目を、ちょっとは紛らす事もあろうと、昼間は白髪の仮髪かつらかむる。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土地とちのものが、其方そなたそらぞとながる、たにうへには、白雲はくうん行交ゆきかひ、紫緑むらさきみどり日影ひかげひ、月明つきあかりには、なる、また桃色もゝいろなる、きりのぼるを時々ときどきのぞむ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
絶えず続いて、音色ねいろは替っても、囃子はやしは留まらず、行交ゆきかう船脚は水に流れ、蜘蛛手くもでに、つのぐむあしの根をくぐって、消えるかとすれば、ふわふわと浮く。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とばかり答えたまう、この時格子の戸きぬ。すかし見るかまちの上に、片肌脱ぎて立ちたるは、よりより今はわが伯母上とも行交ゆきかいたる、金魚養う女房なり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
台所から、中のから、玄関あたりは、ばたばた人の行交ゆきかう音。もっとも帯をしめようとして、濃いお納戸なんどの紋着に下じめのなりで倒れた時、乳母が大声で人を呼んだです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
往來わうらい行交ゆきかふもの、これを噴出ふきださざるなし。して、そのことを、その女房かみさんかたときまたいは
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
戸外おもてへ出ると、もう先刻さっきから雪の降る底に雲の行交ゆきかう中に、薄く隠れ、鮮かにあらわれていたのがすっかり月のに変った。火の番の最後の鉄棒かなぼう遠く響いてくるわの春の有明なり。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明眸めいぼうの左右に樹立こだちが分れて、一条ひとすじ大道だいどう、炎天のもとひらけつゝ、日盛ひざかりの町の大路おおじが望まれて、煉瓦造れんがづくりの避雷針、古い白壁しらかべ、寺の塔などまつげこそぐる中に、行交ゆきかふ人は点々と蝙蝠こうもりの如く
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おい邪魔じやまになるとわるいよと北八きたはちうながし、みちひらいて、見晴みはらしのぼる。にし今戸いまどあたり、ふねみづうへおともせず、ひといへ瓦屋根かはらやねあひだ行交ゆきかさまるばかり。みづあをてんあをし。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
浴衣ゆかた白地しろぢ中形ちうがたで、模樣もやうは、薄月うすづきそら行交ゆきかふ、——またすこあかるくつたが——くもまぎるゝやうであつたが、ついわき戸袋とぶくろ風流ふうりうからまりかゝつたつたかづらがのまゝにまつたらしい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とじっと見詰みつめると、恍惚うっとりした雪のようなお君の顔の、美しく優しいまゆのあたりを、ちらちらとちょうのように、紫の影が行交ゆきかうと思うと、すみれかおりがはっとして、やがてすがった手に力が入った。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またしきりに鳴き出す——足許あしもとの深い谷から、そのしろがねの鈴を揺上ゆりあげると、峠から黄金こがねの鐸を振下ろして、どこで結ばるともなく、ちりりりと行交ゆきかうあたりは、目に見えぬの葉が舞い、霧が降る。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このあたりこそ気勢けはいもせぬが、広場一ツ越して川端へ出れば、船の行交ゆきかい、人通り、烟突えんとつの煙、木場の景色、遠くは永代、新大橋、隅田川の模様なども、同一おんなじ時刻の同一頃が、親仁おやじの胸に描かれた。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
閃々ぴかぴか、と稲妻いなずまのやうに行交ゆきかはす。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
閃々ぴか/\、と稻妻いなづまのやうに行交ゆきかはす。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)