のみ)” の例文
「さう言つたつて、これでものみしたあとよりはでかいでせう。——一體そんなことを言ふ親分こそ身體を汚したことがありますかい」
もっとも下男は給銀を取るが、昌平はときたまのみ眼脂めやにほどの小遣を貰うだけだから、実質的には下男に及ばなかったかもしれない。
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女は灰の上を転げ回り、灰の中にもぐり込み、そして羽をいっぱいに膨らましながら、激しく一羽搏はばたきして、夜ついたのみを振い落す。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それに日本の家はのみと蚊が多いから、元来蚤を気にしたがる日本の女のために洋服の下の蚤の始末も考えてやらなければなるまい。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「おい、御亭主、飛んだのみにたかられての、人騒がせをして済まなかつた。ほかの客人にやお前から、よく詑びを云つておくんなせえ。」
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
のみを殺す以上、鳥を殺してもいいという人がある。すべて性質の差別を程度の差別に帰してひっきょう同一であるというのである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「ホホウ、娘に虫がついた。恋ごろも土用干しせぬ箱入りのむすめに虫のいつつきにけむ……やはり、のみしらみの類でもあるかな?」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
オートバイに乗る、テニスをやる、このごろは猟犬に凝って、ポインターやセッターを飼って毎日のみを取ってやっているんだよ。
黒犬にももまれて驚いたなどという下らない夢を見る人は、めていても、のみの目をされて騒ぐくらいの下らない人なのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その毛皮のえりのみたちがいることを知り、自分を助けてくれるように、そして門番を説き伏せてくれるように、と蚤たちに頼んだりした。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
蠅が真黒まっくろにたかる。のみ跋扈ばっこする。カナブン、瓜蠅うりばえ、テントウ虫、野菜につく虫は限もない。皆生命いのちだ。皆生きねばならぬのだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……なんと、兩足りやうあしから、下腹したばらけて、棕櫚しゆろのみが、うよ/\ぞろ/\……赤蟻あかありれつつくつてる……わたし立窘たちすくみました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「実際わし洞察力どうさつりょくを持ってるんだ。のみがちくりとやる場合には、どの女からその蚤がうつってきたか、りっぱに言いあてることができる。」
「これは苦参くじんといってのみよけのおまじないになる。見かけたところ、この宿屋には蚤がいるにちげえねえ、これを蒲団ふとんのしたにしいてお寝」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それでも然し眠れない。何処から出てくるか、夜通し虱とのみ南京虫ナンキンむしに責められる。いくらどうしても退治し尽されなかった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
今度はその爪を書物のページの上に押しつけ、ちょうどのみをつぶすような工合にこの微細な朱唐紙の切片を紙面に貼り付ける。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
東風こち すみれ ちょう あぶ 蜂 孑孑ぼうふら 蝸牛かたつむり 水馬みずすまし 豉虫まいまいむし 蜘子くものこ のみ  撫子なでしこ 扇 燈籠とうろう 草花 火鉢 炬燵こたつ 足袋たび 冬のはえ 埋火うずみび
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「あきらめよう。のみ一匹にかかずらって、おれたち二人までが、祝家荘しゅくかそうのやつらに、がんじがらめの目に会わされては堪らない」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「気楽も、気楽でないも、世の中は気の持ちよう一つでどうでもなります。のみの国がいやになったって、の国へ引越ひっこしちゃ、なんにもなりません」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とその男の背中と思うあたりの硝子をれんばかりに叩いたが、彼は背中にのみがゴソゴソ動いたほども感じないで、やがて向うへいってしまった。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それが何だか、はつきりしないので気持が悪い。ちやうどのみに背中をはれてゐて、まだそれをはつきり知らないとき、何となく不愉快なやうに。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
この大渦巻の前へ出てははえの一匹と申し上げたいが、それよりもまだ小さくほとんどのみ一匹の大きさにしか過ぎません。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「さて、奈何どう為ようかな?」かれは、額に八の字を寄せ、夥しく蚊に喰はれた脚や、のみに攻められて一面に紅らんだ横腹よこつぱら自棄やけに掻き乍ら、考へ出した。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一ぴきののみ眞蒼まつさをになつて、たゝ敷合しきあはせの、ごみのなかげこみました。そしてぱつたりとそこへたふれました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
のみつぽけな馬車をかす蚤飼の話は噂に聞いてゐるのみで、実地見た事はないが、虱は唯もうその辺を這ひ回るのみで、芸人としては一向価値ねうちが無い。
虫追いは今では害虫の発生した時だけにするが、奥州には毎年六月朔日を期して、のみを駆除する風習もある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
犬の体にはのみがわいた。二匹の犬はいぢらしくも、互に、相手の背や尾のさきなどの蚤をとり合つて居た。彼は彼等のこの動作を優しい心情をもつてながめた。
「さうでさ、ぽどりあんすがね、ありや鬼怒川きぬがはのみはたくつてつてそれつりにつちやつたのせ」
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ヨーギとよしとは、昼の疲れですぐ眠ってしまった。併し、梅三爺も市平も、心が冴えているようで、それにのみがひどいので、なかなか眠ることが出来なかった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
のみの喰つたあとほどの人恋しさの物憎いかゆみが、ぽちりと心の面に浮いた。牧瀬のスポーツシヤツの体からは、半人半獣のやうな健やかな感触が夜気に伝つて来た。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
まず、天地の間に生きとし生けるもの、のみはえに至るまで、いずれかたましいなからんや。その霊なきものを無情、草木、瓦石がせきという。これにだも、なお霊あるいわれあり。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そこで企てたのが本州横断徒歩旅行! もちろん亜弗利加アフリカ内地旅行だの、両極探検だのに比すれば、まるで猫の額をのみがマゴついているようなものであるが、それでも
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
この様な言葉を交換とりかわした。不図、お種は洋燈ランプの置いてある方へ寄って、白い、神経質らしい手を腕の辺までまくって見て、のみでも逃がしたように坐っていたところを捜す。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
死にかけた犬にものみやだにがついているように、飢えたる彼らの周囲にも、飢えた小売り商人が大福もちともえ焼きなどを、これもほとんど時なしに売っているのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
冬中ふゆじゅう真盛まっさかりで、春になり夏になると次第に衰えて、暑中二、三箇月のみと交代して引込ひっこみ、九月頃新芋しんいもが町に出ると吾々の虱もた出て来るのは可笑おかしいといった事がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
馬酔木あしびが丈余のくさむらをなしてい、その中ほどの草の原に、襤褸ぼろと垢とのみしらみとに包まれている不具かたわの流浪者が、八人がところかたまって、うごめきながら話しあっている様子は
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、それはまだ我慢もできるとして、どうにもこうにも我慢のできないのは、少し寝床の中がぬくまるとともに、のみだかしらみだか、ザワザワザワザワと体じゅうを刺し廻るのだ。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
春松のゴマいりを揺り動かす手付きは、見ていて惚々するほどで、しかも逃げた砂粉を再び何度も/\ゴマいりにいれて、いってみれば、女がのみを探す時の熱心さがあった。
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ひざからかかとの辺まで、のみにやられた傷跡が無数にあったが、割と元気そうな顔つきであった。明日彼を八幡村に連れて行くことにして、私はその晩長兄の家に泊めてもらった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
このごろは、ナフタリンだの何のと、種々様々な駆虫剤が便利に手に入ることが出来るので、のみなどもほとんどいなくなったけれども、そのころは蚤が多くて毎夜苦しめられた。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
湯屋ゆやひろあつめたつめじゃァねえよ。のみなんざもとよりのこと、はらそこまでこおるようなゆきばんだって、おいらァじっとえんしたへもぐりんだまま辛抱しんぼうして苦心くしんたからだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
この国で最も有難からぬ厄介物の一つはのみである。山の頂上にでも野生している。彼等は人家に侵入しているので、夜間余程特別な注意を払わぬと人間は喰い尽されて了う。
その年の夏となりしが四五月頃の気候のよき頃はさてありしも、六七月となりては西洋なぞらいの外見煉瓦蒸暑きこと言わん方なく、のみの多きことさながらに足へ植えたるごとし。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
奇妙にポチを呪咀じゅそし、ある夜、私の寝巻に犬ののみ伝播でんぱされてあることを発見するに及んで、ついにそれまで堪えに堪えてきた怒りが爆発し、私はひそかに重大の決意をした。
彼がのみの類を飼育していたことで、それを虫目がねや度の弱い顕微鏡の下で、わせてみたり、自分の血を吸うところだとか、虫同士をひとつにして同性であれば喧嘩けんかをしたり
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「こうしてやると、毛の色艶がよくなりますし、それにのみしらみがたからなくなります。」
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
庄造が此の猫の世話を決して他人の手にゆだねず、毎日食事の心配をし、二三日置きにフンシの砂を海岸まで取り換へに行き、暇があるとのみを取つてやつたりブラシをかけてやつたりし
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
のみもおらぬ、蚊もおらぬ。併したまには蠅が一匹いることがある。七階の上層に蚊は飛んで来ないが、蠅は下界から飛んで来たのであろうか。地下室の食堂の野菜の洗場がここから見える。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
これは昔七座の神に命ぜられて堤に穴を穿うがち、湖を疏水そすいした鼠で、猫を惧れて出なんだので七座の神が鼠を捕らねばのみを除きやろうと約して猫を控えさせ、さて鼠族一夜の働きで成功した。
のみが刺したくらいのことで、ほんのはしたがねを使ったというだけのことであっても、もしかくのごとくにして一夜の歓楽をむさぼるということが、ただにその人の健康に益なきのみならず
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)