人柄ひとがら)” の例文
あねは、気質きだてのきわめてやさしい人柄ひとがらでありまして、すぐになみだぐむというほうでありましたけれど、あまりかおうつくしくありませんでした。
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いま親しくそのお人柄ひとがらを偲ぶべきよすがともなるものは続紀や伝説であるが、私は冒頭にひいた御歌も忘るることは出来ない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
つた聖約翰せいヨハネ荒野あれの蝗虫いなごしよくにされたとか、それなら余程よほどべずばなるまい。もつと約翰様ヨハネさま吾々風情われわれふぜいとは人柄ひとがらちがふ。
それがいつとなくけて来て、人柄ひとがらおのずと柔らかになったと思うと、彼はよく古渡唐桟こわたりとうざんの着物に角帯かくおびなどをめて、夕方から宅を外にし始めた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それはあなた、行きますとも。人柄ひとがらのお方でございますもの」「ふうん、あれが人柄かな。人柄のお方に見えるかな。わしには怪しく思われるがな」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だが、もっと悲劇的な憂愁ゆうしゅうたたえた人柄ひとがらを想像していたのに、極めて快活で人には剽軽ひょうきんらしいところを見せ、出迎えの連中の中での花形になっていた。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しつかり者の四十男で、金儲けや商賣には拔け目のないやうな人柄ひとがらですが、昨夜は少しばかり晩酌ばんしやくをやつて、亥刻よつ(十時)そこ/\に二階へ上がつた切り
で、よござんすか、私にはあなたのお人柄ひとがらが一目で分ったのです。それだのに、どうして一人あたり五百ルーブリぐらい差上げないことがありましょう。
かれは、人柄ひとがらとしては、まことに温和おんわ風貌ふうぼう分別盛ふんべつざかりの紳士しんしである。趣味しゅみがゴルフと読書どくしょだという。そして、井口警部いぐちけいぶとのあいだに、つぎのような会話かいわがあつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
それと今の話との間には、直接には何の結びつきもなかったが、信念の人としての田沼先生の人柄ひとがらが、それでいよいよはっきりするように思えたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ここにいま文を書いている女も、病に悩む女でありましたが、素人風がこうしているとまでに取れないほど、それほど女の人柄ひとがらをよく見せるのでありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まれが生まれだけにどことなし、人柄ひとがらなところがあって、さびしいおもざしがいっそうあわれに見える。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
人柄ひとがら風采とりなり※妹きやうだいともつかず、主從しうじうでもなし、したしいなか友達ともだちともえず、從※妹いとこでもないらしい。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
描写に対する疑惑は、やがて、その的確すぎる描写を為した作者の人柄ひとがらに対する疑惑に移行いたします。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この家の他の人々——即ちジョンとその妻、家婢かひのリア、佛蘭西人の保姆ほぼのソフィ——等は人柄ひとがらのいゝ人たちではあるが、併しこれと云つて面白い所もなかつた。
もうながいことバードック卿の荘園で執事をつとめるウィックスティード氏は、おだやかな人柄ひとがらで、ひとににくまれたり、けんかをしたりするような人でなかった。
だれがてめえのような女乞食おんなこじきのビタせんを、ったりいたりするバカがあるものか、ものをぬすまれましたという人体にんていは、もう少しなりのきれいな人柄ひとがらのいうこッた
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾度水にくゞツたかと思はれる銘仙めいせんあはせに、新しい毛襦子けじゆすえりをかけて、しやツきりした姿致やうす長火鉢ながひばちの傍に座ツてゐるところは、是れが娘をモデルに出す人柄ひとがらとは思はれぬ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
伊太利イタリイの選手達は、みんな、船乗り上がりかなにからしく、うでかた刺青いれずみをみせていましたが、人柄ひとがらは、たいへん、あっさりしていて気持よく、いつぞやぼくと東海さんと連れだって
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
あれは何処どこかの権妻ごんさいだかおくさんだか知れんが、人柄ひとがら別嬪べつぴんだのう。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「あなたは矢っ張り引っ込み思案ね。お人柄ひとがらが好い丈けに」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ああいうお戯れをなさるお人柄ひとがらともぞんじられません。
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
紫羅欄花あらせいとう、帽子の帶のへりにさした人柄ひとがら前立まへだて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
夜目よめなればこそだしもなれひるはづかしき古毛布ふるげつと乘客のりてしなさぞぞとられておほくはれぬやせづくこめしろほどりやしや九尺二間くしやくにけんけぶりつなあはれ手中しゆちゆうにかゝる此人このひと腕力ちからおぼつかなき細作ほそづくりに車夫しやふめかぬ人柄ひとがら華奢きやしやといふてめもせられぬ力役りきえき社會しやくわいつたとは請取うけとれず履歴りれき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「りっぱなみせっている骨董屋こっとうやのほうが、かえって、人柄ひとがらがよくないかもしれない。だれか正直しょうじきそうな古道具屋ふるどうぐやんできてせよう。」
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし僕は、ここにかかれた言葉よりも、こういう思いを述べざるをえなかった親鸞の気持や人柄ひとがらについて、考えてみないわけにゆかなかった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
祖先はかつての吉原の創始者で、浪人者ではあつたにしても、名だたる有徳人うとくじんで、金もあり、人望もあり、何代か土地に住み着いて、申分のない人柄ひとがらだつたのです。
優容しとやか物腰ものごし大概たいがいつぼみからきかかったまで、花のを伝えたから、跛も、めっかちも聞いたであろうに、はしたなく笑いもせなんだ、つつましやかな人柄ひとがらである。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その上、彼女の眼には私の人柄ひとがらや身分や話が如何にも怪しくえいじたに違ひなかつた。彼女は頭を振つた。
たよりにして、この人ならと思って会ってみると、思想傾向と人柄ひとがらとがまるでちぐはぐだったりしてね。知性と生活情操じょうそうとがぴったりしている人というものは、あんがい少ないものだよ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
机竜之助は、この人にはじめて会って見ると、父なる弾正の面影おもかげしのばずにはいられなかった。なんとなく威光のある、そうしてなつかしい人柄ひとがらだと、すさびきった机竜之助の心にも情けの露が宿る。
中折をかぶった男の人柄ひとがらと、世の中にまるでうたがいをかけていないその眼つきとを注意した結果、この時ふと、こんな窮屈な思いをして、いらざる材料を集めるよるも、いっそ露骨むきだしにこっちから話しかけて
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と矢島先生はごく人柄ひとがらがいい。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
疊の上へ眞四角に坐ると、座布團から膝が二三寸はみ出して、その上に置いた手が、八つ手の葉のやうにでつかいのも、何となく大地の子らしい人柄ひとがらを思はせます。
らつしやいまし、と四十恰好しじふかつかうの、人柄ひとがらなる女房にようばうおくよりで、して慇懃いんぎん挨拶あいさつする。南無三なむさんきこえたかとぎよつとする。こゝおいてか北八きたはち大膽だいたんに、おかみさん茶棚ちやだなはいくら。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それはお人柄ひとがらがよいからでござんしょう、お婿様むこさまよりは一段まさっておいでなさる、お婿様は好いお人だけれど、なんだかそれほどに威がないようなお方、それがかえってよろしゅうござんしょう。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
作の人柄ひとがらを画にたとえて何のためになると聞かれるかも知れない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「やっぱり話す人の人柄ひとがらが大事なんだな。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
洗ひ髮のまゝに薄化粧をこらし、手足は少し荒れて居りますが、上から下まで申分のない贅澤な身裝みごしらへを見ると、人の懷中物などを狙ふ人柄ひとがらとはどうしても思へません。
きやくわたしのほかに三人さんにんあつた。三人さんにんは、親子おやこづれで、こゝのツばかりの、かすり羽織はおりおな衣服きものおとなしらしいをとこ。——見習みならへ、やつこ、と背中せなかつゝいてりたいほどな、人柄ひとがらなもので。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「もう一人奥にいらっしゃる奥さんの方がお人柄ひとがらです」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何んと言つてもまだ十九ですから、人柄ひとがらを見拔くことなどは思ひも寄りません」
越中ゑつちうつく/″\いて、かけは弁慶べんけいともふべき人柄ひとがらなれどもこゝろだての殊勝しゆしようさは、喜撰法師きせんはふしにもおとるまじとめ、それよりみちづれして、野寺のでら観音堂くわんおんだうちかくなりて、座頭ざとうかたはらいしつまづきて
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こゝへけつけるのに人數ひとかずおそらくなからう、「あなたをつけてね、のすらりとした容子ようすのいゝ、人柄ひとがらかたえたら大急おほいそぎでわたしてください。」畜生ちくしやうおごらせてやれ——をんなくち赤帽君あかばうくん
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
言うまでもなくハイネは当代の大詩人で、ロマン派の大立物おおだてものであった。その燃えるような情熱と、皮肉な聡明そうめい人柄ひとがらは、若いシューマンをすっかり傾倒させてしまったのも無理のないことである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
色白で、赤い半襟はんえりをした、人柄ひとがら島田しまだの娘がただ一人で店にいた。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)