上野うえの)” の例文
秋になると上野うえのに絵の展覧会が始まる。日本画の部にはいつでも、きまって、いろいろの植物を主題にした大作が多数に出陳される。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
けさ上野うえの駅について、浅草あさくさ有楽町ゆうらくちょうで、映画を二つ見た。映画館の群衆は、自分とはまったくちがった別世界の生きものであった。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「さあ、やねのうえにあがって、上野うえののけむりでもみたまえ。ペンのちからけんちからよりもつよいということを、よくかみしめてね。」
学校から帰りに、神田かんだをいっしょに散歩して、須田町すだちょうへ来ると、いつも君は三田みた行の電車へのり、僕は上野うえの行の電車にのった。
出帆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分は上野うえのの戦争の絵を見るびに、官軍のかむった紅白の毛甲けかぶとを美しいものだと思い、そしてナポレオン帝政当時の胸甲騎兵きょうこうきへいかぶとを連想する。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あそんであるくのも、なかなかほねのおれることだ。田圃たんぼはたらくのとわりはない。明日あすは、上野うえのやまへいって、西郷さいごうさんの銅像どうぞうてこよう……。
銅像と老人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
伊賀いが上野うえのは旧藤堂とうどう侯の領分だが藩政の頃犯状はんじょうあきらかならず、去迚さりとて放還ほうかんも為し難き、俗に行悩ゆきなやみの咎人とがにんある時は、本城ほんじょう伊勢いせ安濃津あのつ差送さしおくるとごう
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
る時花時分はなじぶんに私は先生といっしょに上野うえのへ行った。そうしてそこで美しい一対いっつい男女なんにょを見た。彼らはむつまじそうに寄り添って花の下を歩いていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
七歳の時から上野うえのの山下で薬を売る老人につれられ、時々常陸ひたちの或る山に往来していたと語っているが実際にいなくなったのは十四のとしの五月からで
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
連日れんじつ風雨ふううでとまった東北線が開通したと聞いて、明治四十三年九月七日の朝、上野うえのから海岸線の汽車に乗った。三時過ぎ関本せきもと駅で下り、車で平潟ひらがたへ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
夕立の様なやかましい蝉の声を浴びながら上野うえのの森を越えて、私は久し振りに桜木町さくらぎちょうの住居に友人の橋本敏はしもとびんを訪ねた。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
学校も始めはおちゃみずでしたが、上野うえのになり、ひとばしに移って行き、その間に校長も先生もたびたび代ります。平田盛胤もりたねという若い国語の先生が見えました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
私は『白い光り』と『上野うえのの鐘』の二題にいて、ざっと荒筋けをお話しようと思う、真に凄い怖いというようなところは、人々の想像に一任するよりほかは無い。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
信州しんしゅうの鯉はじめて膳に上る、果して何の祥にや。二時間にじかん眠りて、頭やや軽き心地す。次の汽車に乗ればさきに上野うえのよりの車にて室を同うせし人々もここに乗りたり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
実際に行ってみると、東京は一番平静な街であった。帰りは技術院関係の友人が一緒に北海道へ来る用事があって、技術院の証明を持って上野うえのへ切符を買いに行った。
流言蜚語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
上野うえのの音楽学校にはいってヴァイオリンのけいこを始めてから二か月ほどのあいだにめきめき上達して、教師や生徒の舌を巻かした時、ケーべル博士はかせ一人ひとりは渋い顔をした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
安政元年(西暦一八五四)六月十五日伊賀上野うえのを中心とした大地震の時には、奈良南大門のあたりに大きな地割れが生じ、それから火焔を噴き出したと言われる(大阪地震記)。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
晴れていたら駿河台するがだいから湯島ゆしま本郷ほんごうから上野うえのの丘までひと眼に見わたせるだろう、いまは舞いしきる粉雪で少し遠いところはおぼろにかすんでいるが、焼け落ちた家いえのはりや柱や
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
谷中やなかから上野うえのける、寛永寺かんえいじ土塀どべい沿った一筋道すじみち光琳こうりんのようなさくら若葉わかばが、みちかれたまんなかたたずんだ、若旦那わかだんな徳太郎とくたろうとおせんのあにの千きちとは、おりからの夕陽ゆうひびて
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
伊賀は上野うえのを都とする小さな国であります。「伊賀傘いががさ」はその上野が中心で名を広め、用いる紙は多く「名張半紙なばりばんし」であります。名張といっても丈六や柏原がその産地として知られます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
職人 (盆唄をうたう)八賀はちが上野うえので、高山みれば、浅黄暖簾が、そよそよと。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
ああ、これが上野うえのの動物園というのだな、と新吉はやっと思いつきました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そんなわけで、なまじっかなところではとてもあぶないので、大部分の人は、とおい山の手の知り合いの家々や、宮城きゅうじょう前の広地ひろちや、芝、日比谷ひびや上野うえのの大公園なぞを目がけてひなんしたのです。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
今宵こよい、ちと風流のこころを起して夜の上野うえの山内から、不忍池しのばずのいけを見渡してまいった戻り道、ここまで差しかかると、妙な気合を感じたで、いたずらをやって見たが、そなたに逢えるとは思わなんだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
午後八時を過ぎる頃、わたしは雨をいて根岸ねぎし方面から麹町へ帰った。普通はいけはたから本郷台へ昇ってゆくのであるが、今夜の車夫は上野うえの広小路ひろこうじから電車線路をまっすぐに神田にむかって走った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
刑事達は、この子持ち乞食を、一応警察署に同行して、なおきびしく取調べたが、上野うえの公園で聞き取った以上のことは何も分らなかった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
凡児ぼんじが父の「のんきなトーさん」と「隣の大将」とを上野うえの駅で迎える場面は、どうも少し灰汁あくが強すぎてあまり愉快でない。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
先生せんせいっ、たいへんです。上野うえののほうがくでくろいけむりがたちのぼっています。も、ちらちらともえあがりました。」
動坂どうざかから電車に乗って、上野うえので乗換えて、ついで琳琅閣りんろうかくへよって、古本をひやかして、やっと本郷ほんごう久米くめの所へ行った。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
国直の浮絵は上野うえのふたどう浅草雷門あさくさかみなりもんの如き、その台榭だいしゃ樹木じゅもくの背景常に整然として模様にひとしき快感を覚えしむ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人は別に行く所もなかったので、竜岡町たつおかちょうからいけはたへ出て、上野うえのの公園の中へ入りました。その時彼は例の事件について、突然向うから口を切りました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けると、いい天気てんきでした。そして、あつくなりそうでした。しかし、おじいさんは、電車でんしゃにもらず、まちなか見物けんぶつして、上野うえのほうしてきたのです。
銅像と老人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
天井の張ってない湯殿ゆどのはり、看護婦室に薄赤い色をしてかなだらいにたたえられた昇汞水しょうこうすい、腐敗した牛乳、剃刀かみそりはさみ、夜ふけなどに上野うえののほうから聞こえて来る汽車の音
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
Hさんは越後の人、上野うえのの音楽学校の出で、漢文が得意です。明治二十九年に千歳村に来て小学校長となり、在職二十五年の長きに及びました。村人として私共より十二年も前です。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
よる白々しらじらけそめて、上野うえのもりこいからすが、まだようやゆめからめたかめない時分じぶんはやくも感応寺かんのうじ中門前町なかもんぜんちょうは、参詣さんけいかくれての、恋知こいしおとこ雪駄せったおとにぎわいそめるが、十一けん水茶屋みずちゃや
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
伊賀の上野うえのあたりでは、タビヨコというのが天秤棒のことであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私は古い仏像ぶつぞうが見たくなって、上野うえのの帝室博物館の、薄暗くガランとした部屋部屋を、足音を忍ばせて歩き廻っていた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それをかれこれ三十年後の今日思いもかけぬ東京の上野うえのの美術館の壁面にかかった額縁の中に見いだしたわけである。
庭の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうして、五がつ十五にち上野うえのでは、官軍かんぐん彰義隊しょうぎたいのあいだに戦争せんそうがはじまり、彰義隊しょうぎたいは、まけてちりぢりばらばらになり、寛永寺かんえいじもやけてしまいました。
「ございますよ。何でも今月の末までには、また磐梯山ばんだいさんが破裂するそうで、——昨晩さくばんもその御相談に、神々が上野うえのへ御集りになったようでございました。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私はKに誘われて上野うえのへ行ったと答えました。奥さんはこの寒いのにといって驚いた様子を見せました。お嬢さんは上野に何があったのかと聞きたがります。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その週間の残りの日数ひかずだけはどうやらこうやら、長吉は学校へ通ったが、日曜日一日をすごすとその翌朝あくるあさは電車に乗って上野うえのまで来ながらふいとりてしまった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たかくつづいた石段いしだんんで、上野うえのやまのぼると、東京とうきょうまちが、はてしなく、したに、おろされました。しばらく、そこでおじいさんは、あたりをながめていました。
銅像と老人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
会場を出るとさわやかな初夏の風が上野うえのの森の若葉を渡って、今さらのように生きていることの喜びをしみじみと人の胸に吹き込むように思われた。
庭の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「よく上野うえの広小路ひろこうじへ参ります様ですが。今晩はどこへ出ましたか、どうも手前には分り兼ねますんで。ヘイ」
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今年は朝顔の培養ばいように失敗した事、上野うえのの養育院の寄附を依頼された事、入梅にゅうばいで書物が大半びてしまった事、かかえの車夫が破傷風はしょうふうになった事、都座みやこざの西洋手品を見に行った事
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
新橋しんばし上野うえの浅草あさくさの間を往復おうふくしていた鉄道馬車がそのまま電車に変ったころである。わたくしは丁度そのころに東京を去り六年ぶりに帰ってきた。東京市中の街路はいたる処旧観を失っていた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ねえ、叔父おじさん、上野うえのへまいりましょう。」と、学生がくせいがいいました。
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
来意を通じると、しばらくのあいだは、正気を回復するために、上野うえのの森をながめていたが、突然「おいでかもしれません」と言って奥へはいって行った。すこぶる閑静である。やがてまた出て来た。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
上野うえの公園に近いある淋しい屋敷町を歩いていると、行手に当って、若い女らしい人間を小脇に抱て、エッチラオッチラ走っている、奇妙な人影を発見した。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)