エッキス)” の例文
その健康に多少支配されなければならない彼の精神状態にも冷淡ではあり得なかった。要するに兄の未来は彼らにとって、恐ろしいエッキスであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
窟の入口には薄黒い獣の生皮なまかわを敷いて、エッキスという字のように組まれた枯木と生木なまきとが、紅い炎焔ほのおや白いけむりを噴いていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一次方程式、二次方程式、簡単なのは如何どうにかなっても、少し複雑のになると、エービーとが紛糾こぐらかって、何時迄いつまでってもエッキス膠着こびりついていて離れない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
サア、そのエッキスの実数を云って下さい。降矢木旗太郎……たしかに。いや、いったいそれは誰のことなんです?
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「さてはや、何でげすえ御到来物は。」と円輔は洋燈ランプの方へ顔を突出し、源次は柱に天窓あたまを着けて片陰で仰向あおむいた、この両人、胴中どうなかを入違いに、長火鉢の前で形がエッキス
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人の身体からだは形が見えます。手足胴体触ればわかるよ。五臓六腑も解剖ひらけば見えます。打診、聴診、エッキス光線。ピルケ反応、血液検査と。数をつくした診察道具じゃ。たとい何やら解らぬ病気や。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
僕達も十ひとからげの連中とは選をことにしている積りだ。同僚の多くは、寄ると触ると、エッキスの次の話をする。俸給の上らない不平をこぼす。他に能がない。そういうのに較べると、僕達は大いに違う。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)