鬢掻びんかき)” の例文
「もうすつかりよくなつたんだけどね。——くみちやん一寸鬢掻びんかきを貸して頂戴な。私の髪はぢきこんなに下るのよ。もうお婆さんになつて髪も少くなつたし……」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
かた御殿形ごてんがた、お初形はつがた、歌舞伎形などありと知るべし。次には櫛なり、差櫛さしぐし梳櫛すきぐし洗櫛あらひぐし中櫛なかざし鬢掻びんかき毛筋棒けすぢぼういづれも其一そのいちくべからず。また、鬢附びんつけ梳油すきあぶらと水油とこの三種の油必要なり。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
冷い水道の水はお雪を蘇生いきかえるようにさせた。彼女は額の汗をも押拭おしぬぐった。箪笥たんすの上には、家のものがかわるがわる行く姿見がある。彼女はその前に立った。細い黄楊つげ鬢掻びんかきを両方の耳の上に差した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鬢掻びんかきあしで、耳の裏を撫でつけながら
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おくみは鬢掻びんかきへ洗面器の水をつけて、柱の鏡にのぞいて髪を掻き上げた。婆やが、表の門を開けて、裏手の草つぱへでも廻つて、青いものを見て入らつしやい、と言つてくれる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)