旧字:高張提燈
いくつも高張提灯たかはりぢょうちんをかかげて、花嫁の一行が神田から霊岸島をさして練ってゆくと、丁度途中にめ組の喧嘩けんかがあった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ただ大通りの要所要所に、自身番の柵門があり、番屋の軒に、高張提灯たかはりぢょうちんの明りが、柳のそよぎに明滅していた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄関柱の左右に藩家の定紋を印した、高張提灯たかはりぢょうちんが明るい光りを投げてい、並んでいる番士の両端に、足軽たちが四人ずつ、おのおの提灯を持ってつくばっていた。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
見れば大きな高張提灯たかはりぢょうちんが門の両側に出ている。しかもそのいずれもの提灯が、菊桐の御紋章である。そうしてその光で見ると、門の下にかかっている一方の表札は
秋の陽はとうに暮れて、寺町は淋しく暗くなりまさるばかりですが、春徳寺だけは寺社の係り役人を迎え、三輪の万七の子分達を交えて、高張提灯たかはりぢょうちんの物々しい警戒振りです。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
二十挺の前後は、同じく装剣の銃を持った兵が百二十人で囲んでいる。後押あとおさえは銃を負った騎兵二騎である。次に両藩の高張提灯たかはりぢょうちん各十挺が行く。次に両藩士卒百数十人が行く。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
長州兵の隊長は本陣高崎弥五平たかさきやごへい方に陣取ったが、同藩の定紋をしるした高張提灯たかはりぢょうちん一対を門前にさげさせて、長州藩の兵士たることを証し、なおその弥五平宅で英国士官と談判した。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お裏山の道をはき清めて、目的の稲荷神社にはよいの口から高張提灯たかはりぢょうちんがつけてあった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と思い当るところがあったか、家臣たちは高張提灯たかはりぢょうちんを高く掲げ出して、しゅくとはしていたが、隣家の異変に対して、万一の備えを固めているらしく思われる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と見ると小林の船倉あたりから、高張提灯たかはりぢょうちんのようなものが二つ三つ見え出してきたから
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
赤井左門から命令があったものか、庭先には高張提灯たかはりぢょうちんをかかげ、番手桶ばんておけを積み荒筵あらむしろを敷き、にわか事ながらすべてお白洲しらすそのままに作って、往来に向いた庭木戸を真一文字に開かせました。
その近いあたりは、なんでも一面の大湖のように水が張りきってしまったらしく、その間を高張提灯たかはりぢょうちん炬火たいまつが右往左往に飛んでいるのは、さながら戦場のような光景でありました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)